解読不能「ヴォイニッチ手稿」 レプリカに予約300件

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「シオン議定書」に「東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」、世に偽書の類いは数多いが、読めぬ本なら真偽も定かならぬ……そんな“謎の本”が実在する。

「ヴォイニッチ手稿」。

 アメリカはイェール大学の図書館が秘蔵する約240ページに及ぶ古文書だ。存在を知られてから幾世紀を経ながらいまだ解読不能。羊皮紙には奇妙な文字列が並び、この世のものならぬ植物や生物、女性の裸体などが描かれた奇書である。

 この「読めない本」を複製、販売するという奇特な出版社が現れた。しかも、予定価格は1冊7000~8000ユーロ(約80万~90万円)。高額にもかかわらず、予約は瞬く間に300件も――という話題に触れる前に、雑学王にしてトンデモ本研究家の唐沢俊一氏に文書のご解説を願おう。

「名称の由来は1912年、イタリアでこの文書を発見したポーランド系アメリカ人収集家の名です。が、歴史に登場するのは16世紀末。ボヘミア王ルドルフ2世が600ダカット、今で言えば数千万円とも言われる価格で購入したのが最古の記録のようです。以後、数奇な運命を辿り、錬金術師や富豪の所有を経ますが、誰も解読できなかった。偽書なのかそうでないのかすらわからない」

 インクが薄くて炭素年代分析を行えず、執筆時期は明らかでない。が、羊皮紙の分析は15世紀前半のものであると示している。

「文章には何らかの規則性がありそうですし、絵も添えられている。そのため20世紀に入ってからも言語学や統計学を駆使した暗号解読に挑む者が後を絶ちませんでした。日本軍のパープル暗号を破った有名な研究者も挑みましたが、解けなかった。解読可能なのかもわかっていません」(同)

 イェール大学の許諾を得たスペインの出版社は、限定898冊のレプリカのため、羊皮紙に似た質感の紙まで開発、染みや穴まで完全に再現するという。

「手が届かないわけではない、という値段設定が絶妙ですね。新大陸発見前の中世欧州は、幻覚がまだ近しいものでした。誰が、何を夢見てこんな本を著したのか、ロマンを感じます」(同)

 謎めいた本をためつすがめつも楽しいかも。

週刊新潮 2016年9月8日号掲載

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