「サザエさん」視聴率低下は好景気の兆し!?

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■「サザエさん」が1ケタに!

フジテレビの看板アニメ番組「サザエさん」の苦境が伝えられている。長年、20%超は当たり前と言われていた視聴率が、このところ1ケタになることが珍しくないというのである。その原因については、「裏番組の好調」「声優の変更」「視聴者の生活スタイルの変化」等、さまざまな分析がなされているが、決定的なものは見当たらない。

 国民的番組が衰退することをさびしく感じる方もいるかとは思うが、この視聴率低下、ひょっとすると日本にとっての吉兆となるかもしれない、という説もある。というのも、かつて「サザエさん」の視聴率と株価の相関を調べたところ、「負の相関関係」つまり「視聴率が高いと株価が下がる」という傾向が見られたことがあるからだ。

 この研究が発表されたのは、2005年のこと。大和総研投資戦略部チーフクオンツアナリスト(当時)の吉野貴晶氏は、その名も『サザエさんと株価の関係』という本を著している。

 同書で吉野氏は、行動経済学の視点から、さまざまな身近な現象と株価の関係についての研究、考察を発表しているのだが、なかでも大きな反響を呼んだのが、「サザエさん」と株価の関連だった。以下、同書をもとに研究結果をご紹介してみよう。

 吉野氏が人々の行動に影響するものとして、高視聴率のテレビ番組があるのではないか、という仮説を立てる。そのうえで、ワールドカップや紅白歌合戦のような単発の番組ではなく、レギュラーで常に高視聴率の番組を探したところ、もっとも適していたのが「サザエさん」だった。

■TOPIXとの強い相関関係

 しかも、当時「サザエさん症候群」といった言葉も注目されていた。「サザエさん」が始まると、自然と「ああ、明日から仕事(学校)かあ」と思い、憂鬱になってしまう、という気分のことを指す言葉である。

 やはり、視聴者の気分、行動に「サザエさん」は影響を与えているのではないか――この仮説をもとに、吉野氏は視聴率と、放送翌日のTOPIX(東証株価指数)の相関関係を調べたところ、「マイナス0・86」の強い逆相関の関係が見られた。要は「サザエさん」の視聴率が上がると、株価が下がる傾向が強い、ということだ。

 マイナス0・86というのがどの程度の強さかといえば、たとえばある1カ月のNY株とTOPIXの相関関数を取ったところ「0・58」。

 相関係数はプラス1~マイナス1の間を取り、絶対値(この場合は0・86や0・58)が大きい方が「関係が強い」となる。

 ごく簡単に言えば、NY株とTOPIXの関係よりも、「サザエさん」とTOPIXの関係(この場合は負の関係)が強いということになったのである。

 なぜこのような相関が見られたのか、同書で吉野氏は「日曜の夕方にテレビを見ている人が多いということは、外出している人が少ないわけで、消費が控えめになるからではないか」という仮説を提示している。

 この説に従えば、「サザエさん」の視聴率が下がったことも、決して悪いことばかりではない……ということになるのだが、実際に現在、好況の兆しが見られるかといえばいささか怪しい。そもそも前述の通り、この研究が行なわれたのは10年ほど前のことである。

 さらに冷静な人からは「そもそも裏番組の視聴率が伸びているんなら、在宅率は変わらないから株価と関係ないだろ!」というもっともなツッコミも入りそうである。

 ともあれこんな研究対象になるくらい偉大な番組であることに異論をはさむ人はいないだろう。それだけに、「サザエさん」の巻き返しにも期待したいところである。

デイリー新潮編集部

2016年9月6日掲載

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