日本400メートルリレーの4年後 「スプリンター遺伝子」が左右

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 もとより4人の個の力が歴代チームより格段にアップしたことは論を俟たない。果敢に攻めたバトンパスワークにも目を見張るものがあった。結果、米国をも上回る銀メダルで世界を驚愕させた日本の陸上400メートルリレー。もっともこれらを可能ならしめるパワーの根源は「スプリンター遺伝子」にあるという。それは奴隷貿易という世界史上の悲劇の代償として生まれたものなのか。謎のベールに包まれた“天賦の才”が4年後のメダルの色を左右する。

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現実味を帯びる「東京五輪の金メダル」

 目下、ケンブリッジ飛鳥(23)を始め、日本のリレーメンバーの中に100メートルを9秒台で走れる選手はいない。それどころかファイナリストになった者も皆無だった。

「にもかかわらず日本がリレーでは常にファイナリストになれるのは、伝統的にバトンパスワークに活路を見出しているからです」

 と分析するのは、元100メートル日本記録保持者の不破弘樹氏だ。しかも今回のチームの2走から4走は決勝で、前走者が通常より7~十数センチ遠くにいる地点でスタートを切った。20メートルのテイクオーバーゾーンでバトンを渡せず失格になるリスクを冒してまで、加速に賭ける勝負に出たのだ。

「バトン渡しは3カ所あり、こうしたパスワークの妙で1カ所につき0・1秒、最大で0・3秒縮められる。今の日本代表は100メートル9・85秒ほどの選手が4人いるチームに匹敵します」(同)

■「ACTN3」のパワー

 こうした伝統力に加え、今後さらに10秒の壁を切る選手が出てくれば、日本チームへの期待は高まる筈だ。その起爆剤は、西アフリカ発ジャマイカ着の「スプリンター遺伝子」にある。ボルトなどジャマイカ選手のDNAを研究してきた英グラスゴー大学のヤニス・ピツラディス博士らの報告によれば、そのパワーの秘密は次のようなものになる。

「多くの選手が筋肉の強化、収縮を促すACTN3遺伝子を備えたRR型かRX型という“スプリンター遺伝子”を持っている。これはスピードを瞬間的に上げる筋線維を増やす。200人以上のジャマイカ選手の筋肉を調べたところ、こうした筋線維は、オーストラリア選手が30%しかないのに対し、70%もあった。このACTN3遺伝子による筋線維の発達の違いはすでに胎児の頃から発現している。ジャマイカやアフリカ系米国人の9割以上がRR型かRX型と判明した」

 さらには、

「かつて西アフリカなどアフリカの大地から1000万人の人々が奴隷として強制連行された。その航路の途上で100万人以上が命を落とした。カリブ海の奴隷貿易の最後の停泊地がジャマイカだった。すなわち過酷な運命を生き残り、現在に至るジャマイカの人々は生命力においてもタフ中のタフという素地がある」

 悲劇的な環境がさらに身体能力を高める変種遺伝子を生み出したと言うことか。確かに今回の100メートルの準決勝に残った24人中、ケンブリッジを含めた7人がジャマイカ出身だった(うち3人はバーレーンとトルコに帰化した選手)。生物学者の池田清彦氏が解説する。

「まだ研究中で、分かっていないことが多いのですが、RRとRX型の遺伝子タイプがスプリンター向きである可能性は高い。また速筋を形成するACTN3がないと、短距離走には不向きというデータも出ています。リレーで活躍したトップ選手たちは、日本人でもRRかRXと推察される。ジャマイカの血が半分入ったケンブリッジ君は間違いない」

 今回、ケガに泣いたサニブラウンも西アフリカのガーナ人と日本人のハーフだ。4年後の東京五輪について、不破氏は断言する。

「サニブラウンも代表競争に加わる。ケンブリッジ君の他、9秒台の絶対的エースが誕生すれば、本当に金メダルも夢ではない」

「ワイド特集 『メダル』の夢の後始末」より

週刊新潮 2016年9月1日号掲載

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