アホらしい善意の押し売り NHK五輪番組の「視聴者メッセージ」

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 8月21日に閉幕したリオ五輪。テレビに映る日本選手の奮闘に、甲子園を目指した青春時代を重ねる人もいれば、営業ノルマの達成へ奮い立たされた人もいるだろう。心の中で、得も言われぬ響きがこだまする。それは紛れもなく「感動」。「感動」なのだが、そう何度も連呼されると、興醒めしてしまうのだ。

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 NHKの五輪中継やダイジェスト番組の放送中、視界の片隅に入るアレに、イラッとした人は多かろう。

〈内村航平選手 悲願の団体金メダル本当におめでとう!! 美しいチームワークに感動し、涙が止まりませんでした〉

〈松田丈志選手 800mリレー、本当に感動しました。水泳の神様が、頑張った松田選手にご褒美をくれましたね〉

 そう、画面左下に次から次へと流れる、視聴者からのメッセージである。局に寄せられたメールやツイッターの投稿を紹介することで、視聴者の「参加」を促そうというわけだが、

「はっきり言って、邪魔」

 と、一蹴するのは、上智大学文学部新聞学科の碓井広義教授(メディア論)。

「どこの誰とも知らない人のご意見を読まされるうえに、『おめでとう』『ありがとう』『感動した』という絶賛一辺倒の内容では、何だか大政翼賛会的に『感動』を押しつけられているような気分になる。実際に感動している視聴者が自分を安っぽく感じてしまいます」

 もちろん、番組内で取り上げられなかったツイッターの投稿には、多種多様な意見がある。

 例えば、テニスの錦織圭選手が準決勝で敗れた8月14日未明には、

〈インタビューしてる素人みたいな女は誰だ?〉

〈「日本の皆さんがメダルを期待しています」とか言い過ぎ〉

〈クビにしろ!〉

 と、批判が巻き起こったのに、画面に流れたのは、

〈とても粘り強くてかっこよかったです!!〉

〈素晴らしい試合でした〉

 といったお決まりのメッセージであった。

 都合の悪いものは無視して、一方的に「善意」を押し売りする。これで「公共放送」なんてアホらしい。

「ワイド特集 やがて哀しき『リオ五輪』」より

週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号掲載

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