“男の顔は履歴書” 今も新鮮、加藤泰監督の回顧特集

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 監督の名前より「緋牡丹博徒」シリーズや「男の顔は履歴書」の場面が広く知られているかもしれない。

 その、加藤泰(たい)監督の生誕100年を記念して東京国立近代美術館フィルムセンター(京橋)で40本以上の作品を上映中(9月4日まで)。1985年に他界後、最大規模の回顧特集となる。

“男の顔は履歴書である”とは、頬の傷痕もあらわな安藤昇(昨年12月に他界)を称した大宅壮一の名文句。加藤監督はこれを映画に取り込み、安藤を「男の顔は履歴書」(66年公開)の主役に据えた。安藤は過去を持つ医師の役。戦場体験、戦後の闇市、現在を交錯させて男の半生を骨太に描いている。

「安藤に対して元ヤクザですね、と面と向かって言い、全然怖がらない。だから相手も心を開いた。安藤を俳優として成長させたのは、加藤監督でしょう」(映画記者)

 低予算で製作日数が限られても、型にはまらない。工夫を重ね、地面に穴を掘ってのローアングルも編み出した。情念や侠気が自然と伝わってきたが、映画は庶民のものだからと、抽象的になることを避けた。

「『羅生門』(50年)のチーフ助監督を務めていた時、シナリオを読んでもわからないので黒澤明監督に正直に直接質問した、と言っていました。当然、怒られてしまいましたが、加藤さんは本編とは全く違う印象の予告編を作っています」(映画評論家の白井佳夫氏)

 そんないわくつきの予告編も今回上映される。

 8月31日に始まるベネチア国際映画祭では、過去の優れた映画を紹介するクラシック部門で「ざ・鬼太鼓座」が上映予定。81年に完成したが、広く一般に公開されていない幻の作品だ。

 語りかけてくるような映像美や構図は今も新鮮。暑気払いに名画はいかが――。

週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号掲載

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