福原愛、ロンドンからリオへの4年間 共に歩んだフィジカルトレーナーが語る(1)

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 リオ五輪・女子卓球、個人では惜しくもメダルを逃したものの4位、団体では石川佳純・伊藤美誠選手と共に奮闘し、見事「銅」を持ち帰った福原愛選手。

 今大会、「愛ちゃん、これまでとなんか違うね!?」という声が多く聞かれたが、彼女に起こった変化は何だったのか。
 先のロンドン大会前から、6年以上福原選手のフィジカルトレーナーを務めている中野ジェームズ修一さんに、そのヒミツをきいた。

■なぜ、フィジカルトレーナーが必要なのか?

 福原愛選手の卓球スタイルや卓球のプレイは、「卓球として天才」な部分がすごく多いです。中国選手や中国にいる監督さんやコーチと話していても、彼女のセンスを称賛する声というのは非常に多いです。
 それが彼女の強い部分、特徴ですね。

 ですが、見ていただいてもわかるように、「アスリートとして身体能力がすごく高いのか」というとそこまで高いわけではないんですよね。卓球のセンスはあるけれども、フィジカル的能力が高いかと言うと決してそうではないんです。
 愛ぐらいの卓球の天才は、世界に出ると何人かいて、そこでの戦いがオリンピックだと思うんです。

 ロンドンまでは、どうしても「もう一歩メダルに手が届かない」という所に彼女はいた。
 ではどうしたらいいかと考えた時、彼女が劣っているであろうフィジカルを強化しようということになり、ロンドンオリンピックの2年半前から私が契約させていただきました。フィジカルが弱いので、そこを強化したら、もう一歩メダルに近づけるのではないかというところから始まり、彼女と一緒にやってきました。

■「チーム福原」の役割

 福原選手を支えるチームは湯さんという方がコーチで卓球を教えるのが仕事です。もう一人、金さんという卓球のトレーナーがいて、彼女も中国人なのですが、愛の練習のパートナーで、湯コーチと一緒に卓球のレベルを上げていくためについているトレーナーです。
 この2名の役割の違いは、湯さんは総コーチなので、メンタル的なアドバイスから戦術まで教えます。一方、金さんは練習パートナーなので、対戦相手を想定してシミュレーションをしたボールを出したりなど対戦相手役をする。あとはラバーを貼るとか、そういうことをするのが金さんの役割です。

 そして、あと2人トレーナーがつきます。
 1人がマッサー(マッサージをする人)の榎沢さんという女性。そして私がフィジカルトレーナーです。痛みなどのケアはマッサーがやり、私の仕事は「体を強化する」ことです。パフォーマンスを上げるための筋力トレーニングに加え、準備運動やストレッチのメニューを考えることが専門です。

 愛は、日本の卓球界で個人のフィジカルトレーナーを雇った最初の選手だと思います。
 チームについているトレーナーさんはいますが、個人で、自分でお金を払って、自分だけを専門に見てくれる筋力トレのトレーナーを雇うのは、卓球界では初めてのことだったんですね。
 先ほども言ったように、彼女は卓球の天才かもしれないけれど、フィジカルに関してはそうではない。そこで、もう一歩上がるために、彼女が自分自身で決め、トレーナーを探し始めて私と出会ったわけです。

■リオ五輪直前の福原選手

 今年6月のジャパンオープンで一回戦負けしてから、特に火が付きましたね。
そこからは、練習量が恐ろしいほどに上がっていましたし、私やマッサーが「これ以上練習しない方がいいんじゃないか」と止めたくなるほどでしたね。

 練習時間も12時間以上で、朝9時から夜9時を超えるまで、ずっとやっていました。
 私は大体夕方ぐらいから行くようにしていたのですが、夕方ぐらいに行ってもまだ練習していて、「ご飯食べようか」と言ってそこからご飯を食べて、そのあと一緒にトレーニングをしたりしていました。

 合宿でも朝から夜までやっていました。
 夕飯が終わってからも、さらに体育館に行ってトレーニング、ということをずっとやっていたので、正直よく体がもったなという感想です。
 本人は、もちろん肉体的にしんどかったと思いますが、何かに取りつかれるように頑張っていましたね。
 私の仕事としては、まずキネティック・チェーンを生み出せるトレーニングメニューをまず組みます。
 卓球では「さまざまな筋肉をどう一瞬で連動して、動かすことがきるか」が重要で、これを「キネティック・チェーン」(様々な筋肉がどう連動して動くか)と言います。

 そのトレーニングの結果が、練習中に動きの中に活きているかっていうのを確認します。私のメニューがずれた場合、動きがおかしくなってくるので、それは修正します。
また、湯さんや金さんから「こういう動きができるようにしてほしい」というオーダーが入るので、その動きを可能にする筋トレのメニューを考えていくのも、私の仕事ですね。

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 福原選手がさらに進化した陰には、中野さんはじめ「チーム福原」の強力なバックアップがあったようだ。

 では、卓球に特化した実際のトレーニングとはどんなことを行うのか? そして、愛ちゃんが見せた厳しい表情のワケとはなんだったのか? 引き続き、中野さんにお話を聞く。

福原愛、リオで見せた鋭い表情 共に歩んだフィジカルトレーナーが語る(2)」に続く

中野ジェームズ修一
1971年、長野県生まれ。フィジカルトレーナー、フィットネスモチベータ―。米国スポーツ医学会認定 運動生理学士(ACSM/EP-C)。日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナー。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛選手のみならず、バドミントンの藤井瑞希選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。クルム伊達公子選手の現役復帰にも貢献した。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。その専門知識と理論を基に、アスリートではない一般の人にもわかりやすく、肉体改造の正しい方法を記した新刊『全身改造メソッド カラダは何歳からでも変えられる』(新潮社)が好評。

デイリー新潮編集部

2016年8月27日掲載

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