なぜ「もんじゅ」が日本の平和と環境に資するのか!〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて〉
原子力規制委員会から「退学処分」にされ、引受先が見つからない高速増殖炉もんじゅ。かつての「夢の原子炉」の末路はみじめなかぎりだが、正論を述べるがゆえ「御用学者」と誤解されることがある専門家によれば、「もんじゅ」は環境と平和に資するというのだ。
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原子力規制委員会が引導を渡したのは昨年11月のことだった。高速増殖炉「もんじゅ」について、機器の点検漏れが数多く発覚したことなどを理由に、今の日本原子力研究開発機構(JAEA)は信用できないので、それに代わる新しい運営主体を探すよう、文部科学大臣に勧告したのだ。
もんじゅはプルトニウムとウランの混合酸化物、MOX燃料を使い、発電に使ったプルトニウム以上の燃料を生み出す「夢の原子炉」を実用化すべく建設されたもの。日本の核燃料サイクル戦略の中核に位置づけられていたが、それが存続の危機に追い込まれたのだ。
規制委が突き付けた回答期限のメドは「半年」。すでに半年を超え、8カ月が経過したが、新しい受け皿の具体案はまだ示されない。「もんじゅ」は消滅するのか。もはや必要ないのか。澤田哲生氏を進行役に、専門学者たちが日本の将来を占う真摯な議論を交わした。
【澤田哲生/東京工業大学先導原子力研究所助教(原子核工学)】 もんじゅを巡っては、今年1月、大きな動きがありました。IAEA(国際原子力機関)が実施するIRRS(総合規制評価サービス)の“監査”が入ったんです。IRRSは調査対象国の原子力安全規制に関する法制度や組織を評価するもの。彼らは規制委員会によるもんじゅへの勧告に不満そうでした。そもそもIAEAの規制原則で、規制される側と十分な協議をしながら物事を進めなさい、と謳っているのです。次に“等級別扱い”がなされていないことが浮き彫りになりました。もんじゅは実用化するための“原型炉”で、まだ開発段階。当然、商業炉である軽水炉とは規制上も区別が必要なのに、商業炉と同様に扱われているのはよくない、というのです。IRRSは、規制委員会がやることは断片的で、いくつかの重要な取り決めを文書化していない、と指摘した。誰がどう決めたのか文書化して残していないというんですね。規制委員会の勧告ありきで進んでいますが、実は、勧告自体が不当であったという点を、見逃してはいけません。
【河田東海夫/原子力発電環境整備機構(NUMO)元理事】 “等級別扱い”は安全規制上の一番大事な理念として、IAEAの定める安全基準の最初に出てくる。また原子力規制委員会設置法は、第1条で〈確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し〉と定めています。要するに、等級別扱いは国際的な安全基準の一番大切な部分なんです。規制委員会は、その一番大事な理念を外してしまい、自分たちの設置法第1条すら守らず、もんじゅに対する極刑勧告を出したのですから、その正当性は問われますね。
【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 やはり客観的に見て、おかしな勧告だというのが大方の見方ですが、突き詰めると、規制委の田中俊一委員長が、もともと核燃料サイクルや高速増殖炉開発の意義を十分に納得していない、必要性を感じていない、というところに行きつくのでは。だから、根回しもなく突然の勧告が出てくるのではないかと。
【奈良林直/北海道大学大学院工学研究院教授】 私はもんじゅの現場を見てきましたが、点検漏れが指摘されたのは配管の支持器具などです。その点検はQMS(品質マネジメントシステム)という制度に則って行われますが、制度が最悪の使われ方をしているんです。まず、どういう点検をしますと細かく書いて、それにもとづいて検査し、検査結果を報告するのですが、その際、「こういう点検をします」と書いて書類を提出した瞬間に、それが保安規定となってしまう。で、達成できないと罰せられる。
【澤田】 軽水炉では起きない問題なのですよね。
【奈良林】 いろいろ経験を積んでいる軽水炉では、実際に点検できる方法を書きます。でも原子力機構は、点検の書類を初めて作ったわけです。で、たとえば「目視点検一式」と書くと、「配管が向こう側に通っていて奥が見えない場所も見たのか」と問われ、「それは見ていません」と答えると、「一式全部を見ていないなら3000カ所の保安規定違反です」と言われてしまう。それで点検漏れにされているのですが、実情をマスコミが報じないんです。
■電力会社の協力が必要だが
【澤田】 約半年間、元東大総長の有馬朗人先生を座長に有識者による「もんじゅの在り方に関する検討会」が開かれ、新たな運営組織について5月末に提言しました。しかし、実際、何も進んでいないように思えます。規制委はもんじゅの新しい運営母体について「看板のかけ替えではダメだ」と言っていますが、新組織はどうなるのでしょうか。
【奈良林】 組織を変えろと言っても、もんじゅを動かせるのは世界中探しても、もんじゅを今動かしている人しかいない。それは継続しなければいけません。欠けているのは、先ほどのQMSの書類を作ったり、役所と交渉したりする部隊。各電力会社は東京にそういう部隊が100人ほどいますが、原子力機構は「改善して、ちゃんと点検ができています」と伝える部隊がないため、3カ月ごとの検査で、「点検漏れ何千件」と言われっぱなしになる。役所と対応できる組織を、どこかから持ってきてくっつけなきゃいけません。
【澤田】 すると電力会社の協力を仰ぐことになる?
【奈良林】 今、電力会社は自分の発電所の再稼働問題で手一杯。再稼働が進めば余力もできるでしょうが、今がタイミング的に一番まずい。再稼働がなかなか進まない点は、IRRSがいみじくも言っています。今の原子力規制庁と規制委員会は、新規制基準を作るまではよかったが、規制の運用が“初期段階”だと。日本の規制は世界から見ると小学生だというのです。だから、もんじゅを安全にする指導もできず、無駄な書類ばかり作らせている。
【高木】 もんじゅの在り方検討会では5つほど提言が出されました。内容は、保全計画を策定し遂行能力を持ちなさい、現場が自律的に保守管理をする体制を持ちなさい、社会の関心や要請を運営に適切に反映できる組織にしなさい、といった、新組織が持つべき要件を述べたもので、具体的な話にならずに終わっています。
【澤田】 ただ、その過程で有馬先生の私案のようなものも出ていました。原子力の専門家だけでなく、ほかの分野からも人を登用すると。ところで奈良林さんの話を聞くと、福島の事故から5年たって規制がますます混迷しているようですが、規制委では田中委員長が権力の座を利用して、核燃料サイクルつぶしを進めているように見えるのですが。
【奈良林】 私は田中さんと直接話したことがないですが、もんじゅが嫌いで、高速増殖炉をやめさせたいと考えているという噂は聞きます。
【高木】 ところで、在り方検討会の提言を受け、どうやって組織を作っていくか検討されるわけですが、運転および保守管理の経験がある電力会社の支援は、どうしても必要です。ところが奈良林さんも話されたように、今、軽水炉で手一杯の電力会社は、そんな余力はないと言っています。さらには、1995年にもんじゅのナトリウム漏れ事故が起きてから、電力会社は高速炉の開発は国に任せるというスタンスに変わった。今では東京電力でも高速炉に携わる社員は1人だけで、絶滅危惧種と呼ばれている。ほかの電力会社はもっと厳しい状況で、今後の体制づくりはかなり困難が予想されます。であれば、「看板のかけ替えじゃないか」という批判をかわしながら、これまでもんじゅに携わってきた人たちが関わっていく必要があります。
■悪魔は細部に宿る
【澤田】 7月下旬、朝日新聞などが、もんじゅで新たに点検漏れがあったと報じました。実際は、警報の見落としは事実でも点検は行われていましたが、こういう報道があると、現場は「またか」と感じ、世間は「またやったのか」と見て、悪い連鎖になります。しかし、そもそも“原型炉”のもんじゅは、動かしながら高速増殖炉の保全計画を作っていくべきものです。
【河田】 高速増殖炉は軽水炉とまったく体系が違います。それに、もんじゅは研究開発のための原子炉ですから、一生懸命に稼働率を稼ぐ必要はなく、保全計画が適正であるのを検証しつつ、一歩ずつ前へ進めばいい。ミスが全然ないようにするのではなく、学びながら作り上げていくものです。だから規制庁による点検漏れだ、違反だという指摘は、基本的にフィロソフィーが違うのかなと。規制のあり方を一度ゼロベースに戻すべきです。また、もんじゅに関わっていた人は「運転する自信は十分ある」と言います。ですから、きちんと実働しながら、それを紙の上の体系とすり合わせていくことが大切だと思います。
【澤田】 商業炉とくらべると、もんじゅは実験段階を出ていないので、失敗を繰り返しながら全体を作り上げていけばいい。
【河田】 95年の事故では、ナトリウムがたくさん漏れました。しかし運転マニュアルでは、あれは微小の漏れ率なので、プラントをゆっくり止めればよい、と手順が決まっていた。実際、事故が起きてみれば、急いで止めなかったのは明らかに間違いだとわかったわけです。頭で考えた保全計画なんてそんなものです。「悪魔は細部に宿る」と言いますが、高速炉の安全性について言えば、肝心な部分は開発者たちが一生懸命考えるから、大きなヘマは起きない。ところが、もんじゅほど巨大な体系だと、末端に既存技術を数多く使うので、目が行き届かないところも出てくるんです。そういう部分を、実運転しながら顕在化させ、微小な悪魔を追い出していく。そうして全体の技術体系を強靭なものにしていく。もんじゅはそのためにあります。ところが端から100点をとらなければダメだというように、基本的なフィロソフィーがずれてしまった。
【澤田】 商業炉と同じ扱いをされる前提になっているのが問題です。しかし、現場に行くと若い人の士気は依然、高いと思いました。
【奈良林】 今、もんじゅの保全計画が悪いと言われています。私は日本保全学会の会長ですが、今の原子力規制委員会、原子力規制庁による保全のあり方を、IRRSの指摘と勧告を受けたうえで変えなければいけません。新しい制度はアメリカのNRC(米原子力規制委員会)がモデルになります。また、役所と交渉する部隊、記録を整理して役所に出せる書類にする部隊を、もんじゅの運営組織にくっつけなければいけない。実は、リタイアされている方が宝なんです。東京に事務所があればいいので、そういう方を組織化して役所とコミュニケーションをとれるようにするのです。
【河田】 非常によい提案です。私ももんじゅには、初期に燃料に関して携わり、設計屋としていろいろなせめぎ合いを経験している。かつて関わった人は、なぜそういう選択をしたのか、大事な部分を背負っているので、力を借りられるのであれば、弱い部分の補強に使うのは有効だと思います。
【奈良林】 アメリカのNRCがモデルだというのは、抜き打ち検査というか、随時の立ち入りで機器がまともに動くかを見るような規制に変えるということ。現在の検査のように書類を何万ページ作ったところで、実物の欠点は見えません。これは福島の事故の反省点でもある。軽水炉の検査の仕方を変え、もんじゅについても新時代の点検にする。また、運転する人は運転に専念させないと、混乱が起きるし士気も低下します。今、もんじゅはぼろくそに言われていますが、うまく行かないのは規制する側にも責任があります。NRCは電力会社の運転を指導し、安全を確保するのがミッションですが、日本の規制はそれと正反対のことをして士気を落とし、事業をダメにしています。アメリカも以前は、SALPといって罰金式の規制でしたが、電力会社がやる気を失い、トラブルが多発するようになった。その反省の下に今のアメリカの規制があるんです。日本もまともな規制にすれば、もんじゅに携わる人の士気も上がると思う。
■卒業を前にして退学
【高木】 しかし、原子力について否定的な情報ばかり流れている状況では、気持ちが落ちてくるのもやむを得ません。規制もそうですし、メディアの報道も否定的なものが多い。誤った判断にもとづいたネガティブ・インフォメーションによって、悪い循環に陥っているのは否定できません。核燃料サイクルは非常に気の長い話。私が懸念するのは、若い世代が育たなくなることです。昔は持続性のある高速炉や核燃料サイクルに、憧れをもった優秀な人が研究したいと集まりましたが、原子力の意義すら問われている状況下では、そうではなくなってきています。
【澤田】 一方で、なぜもんじゅを進めるのか、語るチャンスでもあると思う。もんじゅの在り方検討会の終了後、有馬座長に話を聞くと、もんじゅの意義を理解され、前向きに話されていた。なぜ莫大な金をかけてもんじゅを進めるのか、原点を語るべきです。経産省を主体に、フランスの高速炉「アストリッド」に乗ればいいとの意見もありますが、間違いです。自分たちの手の内で機器を開発するかどうかで、エネルギー・セキュリティにおける自由度は大きく違ってきます。
【奈良林】 そもそも耐震性の問題があって、日本ではアストリッドは建設できません。もんじゅは一次系の機器を原子炉容器と分けて配管でつなぐ“ループ型”にしているからこそ、耐震補強をしっかりさせ、いろんなところを抜き出して点検ができる。それに、アストリッドを建設するにも20年、30年とかかり、その間に高速炉を知る人が、日本からいなくなってしまう。
【河田】 日本は地震国だから、一次系の機器を原子炉容器に全部納める“タンク型”が採れず、複雑なループ型を採用した。だから日本はループ型で経験を積まなければならず、そのための実験道具が眼の前にあるのです。学生が卒業を前にして、卒論のための実験装置が組み上がっている。それなのに最後の紙の宿題が下手だから退学にしろ、と言われているようなものです。そんな段階で退学にする規制委員会は、まったくおかしい。日本は次の段階の実証炉で失敗しないための堅牢な技術のベースを、もんじゅを運転することで作れるんです。
【澤田】 原子力を使っていくなかで、軽水炉はいずれ高速炉に代わっていく。ここに集まった方々は、そういう共通認識を持っていると思います。すると、長い時間をかけてナトリウム技術、高速炉技術を育てていくことになる。もんじゅはいろいろ言われても、なお十分使い物になります。今、原子力の代わりに化石燃料を大量消費していますが、石炭もガスもタンカー1台分が3日で消えてしまう。しかし、原子力はいったん燃料を入れれば1年以上使えます。大量に発電しつつ、燃料の保存システムにもなる。日本のように天然資源も化石燃料も少ない国にとっては、原子力しかないと思うのです。
【奈良林】 3・11の後、太陽光や風力など再生可能エネルギーに頼れば万々歳だという風潮が、主にマスコミによって作られました。ところがドイツの実態を見ると、太陽光や風力による発電を増やしたら、二酸化炭素の排出量が増えたんです。緑を伐採して太陽光パネルを設置し、太陽光や風力だけでは足りないので、火力発電のために石炭の露天掘りをし、どんどん緑がなくなった。そのうえ電気代が高騰したので工場はお隣のチェコに逃げ、そこに石炭火力発電所が建設され、CO2がドイツに送られている、なんてバカな現象が起きているのです。
■やっかいものがお宝に
【澤田】 日本における原子力の平和利用の背景には、核兵器の廃絶という意味があります。原子力の平和利用を推進しながら、核兵器廃絶の意義を訴えることに意味があると思います。
【河田】 われわれにとってイギリスがいい例です。彼らは1980年代に北海の油田開発で大成功し、原子力をやめてしまった。ところが2005年ごろには資源輸入国になった。慌てて原子力に回帰しようとしたものの、原子力の技術はすでに失われていて、今、中国から原子炉を買おうという話まで出ています。石炭はありますが、化石燃料の消耗に加え温暖化防止で、どんどん使うわけにいかない。天然ガスならまだいいとしていたものの、それが枯渇すると途端に原子力になってくるのです。どこかで原子力の手を抜くと、再び立ち上げるのが難しくなってしまう。イギリスの苦い経験を眺めれば、自然エネルギーがどうだ、アメリカのシェールガスがどうだと言って原子力を手放してしまえば、日本は立ち上がれなくなるということがわかる。そこを訴える必要があるし、行政や政治に携わる人には、そういう長期的、巨視的な視点が必要です。
【澤田】 今までもんじゅに1兆円くらい注ぎ込んだでしょうか。今後も、動かすには安全補強などで1000億円かかり、維持費も年間数百億円かかる。やめて廃炉にするにもお金がかかりますが、将来につなげることを考えなければいけない。今までの投資も将来への投資と思えば高くはない。
【奈良林】 もんじゅが成功して、将来のエネルギー源として2000年にわたって使えるとしたら、何千兆円分にも相当するエネルギー価値になる。それにくらべれば、1000億円はわずかな金額です。
【河田】 軽水炉は100万キロワット強を40年運転すると、約6000トンもの使えないウランが残ります。これは劣化ウランと呼ばれ、使いようがない。ところが高速増殖炉サイクルを使えば、劣化ウランを全部エネルギーに転換できます。軽水炉が遺した負の遺産をもとにして、100万キロワットの高速炉を3000年以上運転できるんです。これは究極のゴミ燃焼発電なんです。
【澤田】 やっかいものの劣化ウランも、高速炉があればお宝になる。
【河田】 出てくる高レベル廃棄物は熱も減るから、処分場も軽水炉時代の半分で済む。しかも廃棄物の毒性が保たれる期間も縮まる。そのうえ、エネルギー資源を獲得すること自体、不必要になってくる。技術によって半恒久的な発電ができるんです。それをエネルギー資源最貧国の日本人がやらないで、誰がやるというんですか。その保険に1000億円かけるのは、まったく問題ないと思います。
■戦争を起こさないために
【高木】 エネルギー需給の話にとどまりません。今まで世界はエネルギー資源を巡って戦争を重ねてきました。それを繰り返さないように、平和のために核燃料サイクルを進めていたんです。最近はそんな指摘もなく、エネルギー・セキュリティということ自体、言われない。環境論にも言及せず、もっぱら目先の電力供給についてだけ話が進められています。そもそも高速炉は、使った以上に燃料を生み出せる持続可能なシステムであるだけでなく、自分が生み出した廃棄物を自ら食いつぶす能力もあります。すなわち、燃料にも廃棄物にも責任が持てる人類初の技術体系になりうるのです。実験炉以上の高速炉を持っているのは中国、インド、日本、ロシアだけですが、中国は虎視眈々と、いろんなタイプの新型原子炉の研究開発に投資しています。海を埋めて領海を広げているのと同じ意味合いでお金を投じている。そういう状況を冷静に見ながら、核燃料サイクルをとらえるべきだと思います。
【河田】 最近はもんじゅ以前に、六ヶ所村を中心とする再処理に対しても否定的な論調が強まっています。しかし、現時点で原子力の発電容量が大きいのはアメリカ、フランス、日本、中国、ロシアと続きますが、トップ5のアメリカ以外はみな、高速炉計画を将来に据えている。一方、アメリカはシェールガスもあるので焦る必要がないのですが、彼らも高速炉の研究を放棄していなくて、ジェネレーション4(第4世代原子炉)などの計画のなかで、必要なときに出すことを考えている。そういう現状を見たら日本が核燃料サイクルから撤退しろというのは、大きくずれた話なんです。
【高木】 もしナトリウム炉が実用段階になったら、アメリカは率先して開発に戻ってきますよ。大げさではなく、高速炉開発は将来の平和に役立てるためにやっているのです。繰り返しになりますが、戦争が起きて人命が失われれば、お金に換算できない悲劇です。それを避けるためにも、各国が十分なエネルギーを持ちましょう、そのための技術を自国内に持ちましょう、という趣旨なのであって、ある程度コストがかかっても、やるべきことです。化石資源はいずれなくなる。将来のために核燃料サイクルを進める。そういう広い目でもんじゅを見れば、世論のトーンも変わってくるのではないかと思います。
【澤田】 日本が第二次世界大戦参戦に至った最大の原因は、アメリカによるオイル断ちです。要は、エネルギーが無くなったから、南方に獲りにいった。日本はエネルギー資源小国ですから、いかにそれを得るかを考えることは、平和に依って立つことにつながる。日本は相変わらず工業国で、エネルギーを大量に使っていて、それがなければ繁栄を維持できない。平和を守っていくことができないと思うんです。エネルギーが安定供給されないと世の中が混乱するのは、われわれはオイルショックで経験ずみですが、それを若い人にも伝えていかないといけません。
【奈良林】 日本が繁栄を保つために、同時に世界が二酸化炭素の増加で滅びないために、もんじゅを維持することが必要です。
【河田】 昨年末、パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)でも、元NASAの気象学者ジェームズ・ハンセンが「気候問題の解決には炭素を排出しない電力が必要だ。原子力の助けなしに中国やインドでの温室効果ガス削減は、絶対に無理だ」と発言した。ああいう場でも、こうした議論が始まっているのです。
「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第14弾 なぜ『もんじゅ』が日本の平和と環境に資するのか!」より
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