「ドクター秋津」が伝授する3大疾病予防に最強のドリンク(上)

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 心筋梗塞・脳卒中・がん――。3大疾病は長らく日本人を苛(さいな)んできた。身近な生活習慣病が大病の引き金となるケースは実に多い。ならば、その対策も身近に探し求めてはどうか。気鋭の内科医・秋津壽男医師(62)が、今日から始められる最強の予防法を伝授する。

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万能の黒豆茶。泡のもとが「サポニン」

 みなさんは2000年代の前半に起こった「黒ブーム」をご記憶でしょうか。黒豆、黒ゴマ、黒酢といった食材が持て囃され、例えば03年には、ハウス食品が発売した「黒豆ココア」が大ヒットしています。

 以前から牛乳より豆乳を好んで飲んできた私も、ブームが気になり、何の味つけもせずに思いつきで黒豆を煮て食べてみたことがあります。すると豆だけでなく、煮汁が実に美味しかった。深い滋味を感じさせる自然の甘さに驚かされ、「これならお茶の代わりに毎日でも飲める」との思いを強くしたのです。

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 三日坊主で終わらなかったのは、何よりも黒豆が舌に合っていたから。好きでもないものを反復して口に入れるなど無理な話ですし、そんな健康法は止めたほうがいい。私はもともと豆ご飯や豆の煮物を食べていましたので、体質に合っていたのでしょう。

 それから十数年、毎日欠かさず黒豆茶を飲み続けてきました。利尿作用の高さを実感しつつ、血圧は下がって肝機能を示す数値も改善しました。私は酒好き、なかでもワイン派で、いつも晩酌を楽しんでいるのですが、健康的にお酒が飲めるのも黒豆茶のおかげだとつくづく感謝しています。

 最近も、高血圧症にかかって長らく降圧剤を服用していながら、黒豆茶を飲み始めて3カ月で、薬効とは別に数値が上下ともに10ずつ下がったという、知人の実例が寄せられたばかりです。

 ではさっそく、その効能を科学・医学的な見地からお話ししていきましょう。

■ファイトケミカル

 黒豆には、血管を広げて血流を促進させたり、血管の老化を防いだりする成分が豊富に含まれています。主なものは以下の4つです。

〈1〉 アントシアニン

〈2〉 イソフラボン

〈3〉 サポニン

〈4〉 ビタミンE

 このうち〈1〉〈2〉〈3〉はいずれも、植物が害虫や紫外線から身を守るため、自ら作り出した機能性成分である「ファイトケミカル」と呼ばれる化学物質です。これらは人体にとって必須の栄養ではありませんが、抗酸化作用に優れており、近年は特に注目を集めています。

 日本人の死因に多い「心筋梗塞・脳卒中・がん」は、ご存じの通り3大疾病とされており、これらの発生メカニズムにはいずれも「活性酸素」と呼ばれる化合物が深く関わっています。呼吸の際、酸素を体内に取り込むことで発生するのですが、困ったことに非常に攻撃性が強く、体内の細胞を構成する脂質やタンパク質、DNAをことごとく酸化させてしまうのです。

 血液中のコレステロールや中性脂肪など余分な脂質が、活性酸素の攻撃で酸化すると、血管の壁にこびりついて動脈硬化を引き起こします。この動脈硬化が、心筋梗塞や脳卒中の原因となり得るのは言うまでもありません。また、活性酸素によってDNAが傷つき、それが修復できずに新しい細胞へうまく情報が伝わらないと、細胞が暴走して「がん化」してしまいます。

 そんな活性酸素を撃退するには、先に述べた抗酸化作用を持つ「ファイトケミカル」のアントシアニン、イソフラボン、サポニンがうってつけです。つまり、黒豆茶が3大疾病に罹患するリスクを押し下げてくれるというのです。

■大豆の2倍のイソフラボン

 次に、4つの主要成分を個別にみていきます。大豆が体によいのは今や常識となっており、黒豆も黄色い大豆の一種なので、当然ながら含まれる栄養素はおおむね同じですが、1つだけ大きく異なる成分があります。それが「ポリフェノール」です。ファイトケミカルの中でも強力な抗酸化作用を持つ一群で、赤ワインやココアに多く含まれることでも知られています。黒豆においては、先に述べた〈1〉アントシアニンと、〈2〉イソフラボンがこれに該当します。

 アントシアニンは、ブルーベリーの含有物としてCMなどでお馴染みだと思います。ブルーベリーもやはり栄養に満ちているものの、いかんせん甘く、食べ続けるとカロリーの問題が生じます。その点、黒豆茶は、どれだけ飲んでも糖分過多の心配がありません。アントシアニンはまた、ナスの皮にも含まれていますが、そればかり食べるわけにもいかず、料理では活用しづらいところです。

 和食や中国料理では赤・黄・緑・白・黒の「五色」を重視します。これらの食材が揃った食事は栄養のバランスがとれているとされるのです。赤は肉や魚介類、トマト、ニンジンなどで、黄は卵や大豆、カボチャ。緑は野菜が中心で、白はコメやパン、豆腐や大根など。そして黒は、ヒジキや海苔、舞茸に黒ゴマなどですが、他の色に比べ、アントシアニンに富む「黒い食材」は日々の食事で不足しがちです。そんな中で、圧倒的にたやすく、かつ毎日摂取できるのが黒豆だというわけです。

 そうした“恩恵”はまず、味覚において感じることができます。アントシアニンをまったく含まない大豆茶とは異なり、黒豆茶は、その働きでほのかな甘みが感じられるのです。

 食品メーカーの「フジッコ」は、黒豆の研究に力を入れています。例えば黒豆に特有のポリフェノールの主要成分である「プロアントシアニジン」の化学構造を解明しているのですが、これは大豆にもブルーベリーにも含まれていません。その効能として、肥満抑制や脂質代謝の改善、肝細胞の障害を抑制する働きなどが明らかになっています。

 また、〈2〉のイソフラボンには血管を広げて血圧上昇を抑え、かつコレステロール値を下げる働きがあります。居並ぶ栄養成分の中でも、とりわけ動脈硬化の予防が期待できるのです。実際に大豆と黒豆のイソフラボン含有量を比べると、大豆1に対して黒豆は2。つまり黒豆には大豆の2倍ものイソフラボンが含まれているのです。

■動脈硬化に「万全の布陣」

 黒豆の「実力」をまざまざと見せつけてくれるのは〈3〉のサポニンです。豆を煮る時に出る泡の成分で、一般的には「アク」にあたり、渋みやえぐみがあるのですが、何とこのサポニンには血液をサラサラにする働きがあるのです。

 サポニンは水溶性、脂溶性にかかわらず物質を溶かす性質を持つため、血中の脂質や血栓を溶かし、血管をきれいに保ってくれます。特に血栓は脳梗塞や心筋梗塞の原因となりますから、これらの予防にもなるわけです。

 さらにサポニンは、余分な脂肪や糖質の吸収を遅らせてくれます。酸化して血管壁に付着した悪玉コレステロールを除去し、強い抗酸化作用で血管の老化を止めてくれるので、結果的に動脈硬化の予防に繋がります。また体内に吸収されたブドウ糖が中性脂肪へと変わるのを妨げてくれるので、肥満予防にも有効です。

 何より左党にとって嬉しいのは、サポニンが持つ肝機能障害の予防効果でしょう。お酒の飲み過ぎはもちろん、高脂質の食事を過剰摂取すれば肝臓に負担がかかります。そこに血中の脂質を減らしたり、体内に入った余分な脂質の酸化を防ぐサポニンがフル稼働し、肝臓もまた健康が保てるのです。

 続いて、〈4〉のビタミンEです。サポニンと同じく悪玉コレステロールの酸化を防いでくれますが、「若返りのビタミン」との異称があるほどで、非常に強い抗酸化作用を有している。がん予防にも、もちろん有効です。また血管を収縮させる神経伝達物質の生成を抑え、毛細血管を広げる働きも持ち合わせています。血液をサラサラにするのは先に述べた通りですが、であれば血流もよくなるのは自明でしょう。女性は美肌効果が期待できますし、肩こりや頭痛、冷え性の解消にも力を発揮してくれます。

 以上4つの成分に加え、黒豆には「良性脂質」ともいえる「不飽和脂肪酸」が含まれているのですから、至れり尽くせりです。「リノール酸」や「α─リノレン酸」などがその代表で、前者は血中の悪玉コレステロールを減らして善玉を増やし、血管を拡張させる物質を作り出します。後者も、青魚に含まれることで知られるEPAやDHAに体内で変化し、血液をサラサラにしてくれます。さらに黒豆の脂質には、認知症の予防効果が期待できる「レシチン」も豊富に含まれている。これは水と油を混ぜ合わせる働きがあり、体内の余分な脂肪を溶かして排出するため、同じく血管をきれいにする作用があるのです。

 このように黒豆は、動脈硬化予防に対し「万全の布陣」を敷いています。体に良い大豆の栄養をしっかり受け継ぎ、その上で「黒い食材」の効能を最も効率よく摂取できるのですから、文字通りの“ハイブリッド食材”なのです。

■「出し殻」は酒のつまみに

 その黒豆茶の作り方は下にある通りですが、ポイントは豆を徹底的に煮出すことです。一般に紹介されているのは、煎った豆にお湯をかける飲み方。ティーバッグに入ったタイプも市販されており、手軽に作れて効果もありますが、やはり黒豆の豊富な成分を十分に享受するには「素通り」したお湯よりも、煮出したスープをお勧めします。

ポイントは豆を徹底的に煮出すこと

 時間がない方は黒豆をフードプロセッサーなどで砕いてから煮ると、早くでき上がります。圧力鍋を使ってもいいでしょう。豆の栄養素が壊れるようなことはないはずですし、また煮汁を冷凍したものも市販されています。

 豆を煎るかどうかは効能とは関係ないので、お好みで構いません。産地もまた然りで、ブランド力のある京都・丹波産は高価で、北海道産は比較的安価ですが、期待できる健康効果は変わらないのです。ただ、煮上がった黒豆と煮汁の味は格段に異なります。そこはやはり、値段に比例してしまうところです。

 煮汁を取ったあとに残った豆で、再び煮出すことも可能です。私の経験では、三番煎じぐらいまでは効果が期待できると思います。またティーバッグ派の方にも、飲み終わったら袋の中の黒豆はぜひ食べて貰いたいですね。

 かくいう私は1日あたり、およそ500~600ミリリットルの黒豆茶を飲んでいます。もっとも、薬ではありませんので「最低これだけは飲まなければ」というノルマはなく、また「これ以上飲むと危険」というリミットも存在しません。喉が渇いた時に、そのつど飲めばいいのです。

 そして1日の終わりには、役目を終えた「出し殻」をつまみにワインを飲んでいます。例えばタマネギ、パクチーなどと一緒に細かく刻み、塩とライムと油のシンプルなドレッシングでサラダにしてみます。黒豆を砕いてハンバーグ風にしたり、卵焼きやご飯に入れるという活用法もあります。どんな風に調理しても決してまずくならないのも、黒豆の優れた点でしょう。

 3大疾病も恐るるに足らず。この「最強ドリンク」についてもっと詳しく知りたい方は、拙著『血管が若返る! 黒豆茶健康法』(ナツメ社)をお読みいただければ幸いです。

「特集 『ドクター秋津』の3大疾病予防に最強のドリンク2品」より

秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)

週刊新潮 2016年7月21日参院選増大号掲載

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