「ヘリコプター・マネー」という劇薬 日本経済破綻の恐れも

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日本銀行本店

〈このお金は、返済の必要がありません。ご自由にお使いください〉。ある日、こんな文章とともに現金書留が自宅に届いたとしたら、それをゴッサンと喜んでいいものなのか。

 日銀は7月28、29日の両日に金融政策決定会合を開き、株価指数に連動する上場投資信託の買い入れを3・3兆円から6兆円に増加することを決めた。

 29日の日経平均株価の終値は1万6569円。“バズーカ”とまではいかないまでも、前日比92円43銭高で証券市場は好感したが、日銀関係者は浮かない表情だ。

「当初、今回の政策決定会合では緩和策を発表する予定はありませんでした。ですが、安倍総理が政策決定会合開催の直前に“事業規模で28兆円超の経済対策を行う”と明言したことで、日銀もゼロ回答では済まなくなったのです。黒田総裁は記者会見で否定しましたが、“ヘリコプター・マネー”の実施も現実味を帯び始めてきました」

 ヘリコプター・マネーとは、ノーベル経済学賞を受賞した、米国のミルトン・フリードマンの著書『貨幣の悪戯』に出てくる言葉で、ヘリから現金をばら撒くような政策を指すという。全国紙の経済部記者が解説するには、

「ヘリ・マネでは、日銀が無利子で償還期限のない“永久債”を引き受け、政府がその資金を国民へ直接給付する。それで経済が活性化し、デフレを克服できるという政策です」

 現行法では日銀による国債の直接引き受けは禁じられていたはずだが、

「財政法第5条では、日銀の国債引き受けを禁じています。ただし、その後に“国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない”との条文がある。今の国会は与党が過半数を占めているので、安倍政権がその気になれば可決される公算が高いでしょう」(同)

■ハイパーインフレ

 ヘリ・マネ政策は、黒田総裁が行っている“異次元緩和”どころではない劇薬との指摘がある。経済ジャーナリストの福山清人氏によれば、

「ヘリ・マネ政策を実施すれば、黒田総裁が目標に掲げる“インフレ率2%”を達成し、一時的に株価も急上昇するはず。ですが、永久債の発行で、償還期限のある国債価格は暴落して、それを引き受けた日銀の信用も失墜する。加えて、一旦上昇したインフレ率を食い止めることができず、ハイパーインフレが起きて日本経済が破綻する恐れもあります」

 そんな危険を孕んでいるのは百も承知の黒田総裁のみならず、安倍総理にもこの“劇薬”を勧める超大物がいるという。

「米連邦準備制度理事会のベン・バーナンキ前議長が来日し、参院選から一夜明けた7月11日に黒田総裁と、その翌日には安倍総理と会談して、デフレ克服の特効薬にヘリ・マネ政策の実施を提案しています。なにせ、彼は“ヘリコプター・ベン”の異名を持つほど熱心なヘリ・マネ政策の推進論者ですからね」(先の記者)

 だが、過去に米国でヘリ・マネ政策が実施されたことはない。バーナンキ前議長が、ここまで劇薬を勧めるのはなぜか。

「バーナンキ前議長も危険を十分すぎるほど理解しているので、米国での実施は躊躇った。そこで日本を実験場にして、その効果を“疑似体験”したいだけなのです」(福山氏)

 政府から自宅に現金書留が届いたら、日本経済の破綻を覚悟した方がいいかもしれない。

週刊新潮 2016年8月11・18日夏季特大号掲載

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