“日本一美味しい”を目指す足立区の給食、そのメニューとは 豪華すぎる学校給食のメニュー一覧(2)
ノンフィクション・ライターの白石新氏がレポートする、現代っ子の豪華すぎる給食事情。前回にて、ふぐやズワイガニが提供される例を紹介したが、給食が美味しくなったのには、2005年に成立した食育基本法の影響が大きいという。これにより、栄養価の値ばかりを重視していた学校給食は、和食中心の献立に変わっていった。
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たとえば横浜市のある小学校では、和食の基本としての米にこだわり、栄養教諭が中心になって、三重県から有機栽培米を導入するようになった。横浜市の給食関係者によれば、
「有機栽培米を炊いた日には、食べ残しがほとんどありません。生徒たちは“このお米のときはカレーでなくてもよかったのに”と言いますね。実際、給食が和食中心のメニューになってからは、たとえば“鯖の味噌煮”といった、一見大人びたものが人気メニューになってきています」
■「おいしい給食事業」を推進
ところで、学校給食の現場では、食べ残しを「残菜率」という数値であらわしている。聞き慣れない言葉かもしれないが、提供した給食のうち、食べ残しがどれだけあったかを示す数値で、数字が小さいほど、子どもたちが給食を残さず食べたことになる。残菜率が低いほど「美味しい」給食であると考えてもさしつかえないだろう。
その数値において、いま、めざましい成果をあげているのが東京都足立区である。実は、足立区は「日本一美味しい給食」をめざすと公言しているのだが、それを実現するために、一風変わった名を冠した部署が設けられている。「足立区学校教育部おいしい給食担当課」がそれである。
区長の陣頭指揮の下、この部署の担当者から各校の栄養士、栄養教諭までが協力しあって、「おいしい給食事業」を推進しているのだが、その成果がめざましい。この部署の担当者に話を聞くと、
「足立区の学校給食の残菜率は、小学校の場合、08年には9%でしたが、5年後の13年には3・7%にまで低下しました。中学校でも、14%だったのが7・7%にまで下がったのです。そのおかげで、年間300トン以上あった給食から発生した生ごみが、200トン以下にまで減少しました」
“子どもの貧困”が社会問題になっている昨今、1日の食事のうちでまともなものは給食だけ、という児童もいるという。だから、食べ残しが減ったのは子どもたちの貧困が原因ではないか、あるいは、給食の量が足りていないからではないか、といぶかる向きもあるようだ。
しかし、やはり足立区の給食が、以前にくらべて美味しくなったことに、疑いはなさそうだ。というのも、足立区の給食のレシピを集めた書籍『東京・足立区の給食室』が出版され、すでに7万部を超えるベストセラーになっているうえ、区庁舎の最上階のレストランでも学校給食のメニューを提供し、毎日完売するほど、大変な人気を呼んでいるのである。
■「足立なサモサ」「ハンガリアンシチュー」
足立区特産の小松菜を使用したパスタ
それがどんなメニューなのかというと、実に個性的で、バラエティに富んでいる。たとえば地産地消タイプのメニューでは、区の特産である小松菜をたっぷりつかったひき肉のカレー「こまつなのキーマカレー」に、同じく小松菜をつかったインド料理のサモサ「足立なサモサ」。
世界各地の料理も供されている。最近は「カレーのときはナンが定番」(前出の横浜市の給食関係者)というほど、“国際化”が進んでいる学校給食だが、足立区もまた例外ではない。
一例を挙げれば、「ビスキュイパンにハンガリアンシチュー」といった、なんだかよくわからないメニューまで提供されている。ちなみに、これはパンの上にビスケット地が乗った菓子パンと、トマトスープよりコクがあるハンガリー風のシチューのことである。
そうかと思えば、「麦ごはん、肉ジャガ、わかめのポン酢あえ」といった、祖父母世代も一緒に食べられそうな和定食にいたるまで、実に多種多様の献立が出されているのだ。
素材選びにも、充分留意しているという。たとえば足立区の給食でつかう出汁は、すべて天然ものだ。塩分はひかえめにし、かつおぶしや鶏ガラからきっちりと出汁をとっている。もちろん野菜は、地場産を多くとりいれている。
実を言えば、昭和60年代に足立区の小学校で給食を食べていたという、現在40代の区民が、
「別の区から転入してきたんですが、足立の給食のほうが不味かった」
と述懐するように、かつて同区の給食は、あまり評判がよろしくなかったそうだ。それがいまや、子どもたちを対象にアンケートを行っても、「美味しい」「楽しみにしている」という回答が90%以上にのぼるという。ほとんどの子どもたちが美味しいと感じるまでに変化したわけだ。
「特別読物 ズワイガニから松阪牛まで! 豪華すぎる学校給食のメニュー一覧――白石新(ノンフィクション・ライター)」より
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