領有権裁判で赤っ恥の中国、周辺諸国を丸め込む“カネの力”

国際 中国

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フィリピンのドゥテルテ新大統領(写真・ゼータイメージ)

 7月12日にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が下した判決は、〈(中国が南シナ海において)歴史的な権利を主張する法的根拠はない〉と、中国の主張を全面的に退けるものだった。これを受け中国メディアは〈あまりにバカバカしい〉などと書き立てたが、こうした“逆上”は「国内世論を意識してのこと」(東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉氏)であるという。

 一党支配体制を敷く共産党の求心力を高める手段でもあった南シナ海進出に待ったをかけられたことで、中国政府の面子は丸潰れだ。しかし、ASEM(アジア欧州会議)で安倍晋三総理と会談した李克強首相は「介入をしないように望む」と牽制し、鳩山由起夫元総理を中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の顧問役に引き入れたりと、中国は「逆襲」の布石も打っている。

 こうしたパフォーマンスは、当然、国内世論だけでなく国際世論を意識した一面も持っている。

 大手メディアの国際部記者が解説する。

「ASEMでの李克強と安倍総理との会談には驚きました。完敗判決直後のタイミングで、よく日本の総理と会ったなと。つまり、この会談自体、中国による宣伝・外交戦の一環と言えます。最も敵対的な関係である日本のトップとも対話できるのだから中国は孤立していないと、国際的にアピールする場として利用したんです」

■フィリピンへのアメ玉

 無論と言うべきか、「したたか」な中国は国内的、国際的なイメージ戦略とともに、当事者を懐柔することも忘れていないようだ。

 京都大学名誉教授の中西輝政氏は、今後の中国の出方をこう読む。

「フィリピンに経済的援助というアメ玉を与え、この問題をもう蒸し返さないと言わせようとするでしょう。そもそも、今回の判決には拘束力はあるものの強制力はありませんからね」

 先の遠藤氏も、フィリピン側の動向に注目する。

「フィリピンが提訴したのはアキノ大統領時代の2013年でしたが、今年6月に就任したドゥテルテ大統領は判決前に、『戦争を望まない。我々に有利な判決が出ても中国と話し合う』と述べていました。そして、この発言を中国メディアは繰り返し報道しています」

 実際、ドゥテルテ大統領は、

「就任前から在フィリピンの中国大使と接触し、鉄道整備への支援を取り付けた親中派です。したがって、中国がカネの力でフィリピンを丸め込み、当事者同士が問題ないとしているのだからと、幕引きを図る可能性がある。その証拠に、早速、ASEMでは同じく親中派のカンボジアに570億円の経済支援を約束し、『陣営』の引き締めを行っています」(前出・国際部記者)

 とどのつまり、中国が判決におとなしく従い、国力に劣るフィリピンに領有権を譲るという漢気(おとこぎ)を見せる兆候は微塵も感じられないのだ。

「特集 仲裁裁判で完敗した『中国』共産党はどうする?」より

週刊新潮 2016年7月28日号掲載

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