「出光」騒動、合併反対の創業家に味方する“大物財界人”
石油元売り業界の再編に暗雲が立ち込め始めている。出光興産の創業家が、昨年11月に発表した昭和シェル石油との合併に“NO”を突き付けたからだ。新聞などは元衆院議員で、創業家代理人を務める浜田卓二郎弁護士の言動を報じているが、業界関係者は“安倍総理の経済ブレーン”の動向に注目しているという。
合併か、破談か
出光の月岡隆社長と、創業家出身の出光昭介名誉会長が、話し合いの場を持ったのは7月11日のことだった。月岡社長は資料を示して、昭和シェルとの合併の必要性を説いたが、昭介名誉会長はかねてから主張していた社風の違いなどを挙げて反対したため、話し合いは平行線をたどった。全国紙の経済部記者によれば、
「業界2位の出光と5位の昭和シェルの合併が破談すれば、昨年末に発表した業界最大手のJXホールディングスと3位の東燃ゼネラルとの合併にも影響を及ぼしかねません」
業界再編の背景には、人口減などが影響して需要が年2〜3%減少し、2030年には3割以上も減るという事情がある。
「経産省主導で進む業界再編に猛反対しているのが、“財界の超大物”です。出光創業家からも相談を受けて、浜田弁護士を紹介したとも噂されています」(同)
その超大物とは東燃ゼネラルの元社長で、日銀政策委員会審議委員を務めた中原伸之氏(81)を指す。中原氏は東大経済学部卒業後、ハーバード大学大学院で経営学を学び、社長退任後は東大の講師も務めた経済界切っての理論派だ。業界関係者が解説するには、
「イェール大名誉教授の浜田宏一さんと並び、“アベノミクスの主柱”とされ、官僚やエコノミスト、若手財界人の信奉者も少なくありません」
この合併が破談すると、JXと東燃ゼネラルの合併は独占禁止法に抵触し、頓挫する恐れがあるという。
■石油価格は跳ね上がる
「出光と昭和シェルの合併は、必ず失敗しますよ」
こう断言するのは、中原氏ご本人だ。
「大騒ぎするような問題ですか。セブン&アイやセコムで経営陣と創業者との間で争いはあったが、今回は全く違う。出光家は、創業家であると同時に3分の1を保有する大株主。大株主に相談なく合併を発表したのだから、出光の月岡社長は礼を失しています」
で、出光家にはどんなアドバイスをしているのか。
「創業者の出光佐三さんもよく知っているし、昭介さんは友人ですし、浜田弁護士とも議員時代から付き合いがある。だけど、私は現役じゃないから、アドバイスも何もしていません。私は業界一の古株だから、名前が出るんじゃないの。11日の話し合いの後、月岡社長は記者会見を開いたが、事前に昭介さんには教えなかった。両者の溝は深まるばかりでしょう」
出光と昭和シェルの破談後、中原氏は東燃ゼネラルとJXとの合併を解消し、昭和シェルを飲み込もうと画策していると囁かれている。
「東燃ゼネラルの売上高は連結で約2・6兆円。なぜ、そんな会社がJXと合併しなければいけないのか。私が社長だったら絶対に許しません。東燃ゼネラルと昭和シェルの合併は選択肢の1つかもしれませんが……。石油元売りが国内に2、3社なんて話はおかしい。経産省主導で再編が進めば石油価格が跳ね上がり、最終的に消費者が迷惑することになりかねません」
安倍総理に太いパイプを持つ有力な当事者の発言だけに、このまま経産省の思惑通りに業界再編が進むとは思えない。