[あるヤクザの半生]刺青眉毛の男 オカンのオトコは俺の妹を妊娠させた

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出来の悪い奴がヤクザになる

 ヒトはなぜヤクザになるのか。または、どういうヒトがヤクザになるのか。

 こうした問いに対して、真っ当に生きている人からは、次のような回答が返ってくるかもしれない。

「要するに出来の悪い奴、意思の弱い奴、モラルの無い奴がなるだけ」

「犯罪者の息子は犯罪者になる」

 さらに、「あんな奴らの事情なんか知ってやる必要もない。言い訳も聞きたくない」「最後は自己責任だ」と突き放す人もいることだろう。

 いずれももっともな反応であるし、世間の大多数はこういう感覚かもしれない。

 しかし、「出来の悪い奴がなる」で片づけていいのだろうか。これまでに数多くの元ヤクザから聞き取りを行ってきた犯罪社会学者の廣末登氏は、この点に疑問を投げかけている。新著『ヤクザになる理由』で紹介されている、彼の知人の元ヤクザの人生は壮絶だ。廣末氏はこの男性と2014年に関西で出会った。1970年生まれで、身長は170センチほど。鬼のような刺青の眉毛で、幅が通常の倍はあった。指は数本欠損していたという。以下、同書からこの元ヤクザの独白部分を抜粋してみよう。

オヤジは指名手配犯

「おれの家は、オヤジが指名手配犯やったんですわ。せやから、あちこち逃げ回る生活でしたんや。おれが小学校に上がる前の年に関東で死にまして、オカンはおれを連れて、郷里に帰ってきたんです。そんとき、オカンの腹には妹がいてましたんや。

 帰郷して直ぐに、オヤジの友人いうんがなんや世話焼く言うて、家に出入りし、そんうちにオカンと内縁関係になりよりました。おれとしてはどうということは無かったんですが、ある事件――言うてもしょうもないことですわ――をきっかけに、虐待が始まったとですわ。

 まあ、殴る、蹴るの虐待の毎日ですわ。こっちは子どもですやん、手向かいできんかったですわ。それからですよ、路上出たんは。

 まあ、小学校低学年ですやろ、公園のオッちゃんらのタンタン(焚き火)当たりたいですが、怖いやないですか。

 で、あるとき、気づいたんですわ。こん人らが飲みよる酒(ワンカップ)持っていったら仲間に入れてもらえんちゃうかとね。子どもの手は、自販機に入りますから、相当抜いて持っていきましたわ。案の定、喜びはって『若! 大将!』とか呼ばれて仲間になってましたわ」

 彼は小学生の頃からスリの常習犯でもあった。子供の頃は野宿か児童相談所、教会の養護施設のどこかに居たという。

殺意をおぼえた日

「そないな生活のなか、初めて遊園地や動物園に連れて行ってくれたんは、近所のアニキでした。この人は、筋金入りの不良やってましたんやが、おれら子どもには優しかったんですわ。アニキに連れて行ってもらった動物園、生まれて初めて見るトラやキリン……今でも鮮明に覚えてますわ。いい時間やった。

 おれもこのアニキのようになっちゃる思うて、不良続けよったある日、まあ、いつものように年少(少年院)から出て、妹の通う小学校に行ったんですわ。すると、担任が「おまえの妹はここに居らんで」言うて、児相(児童相談所)に行け言うとですわ」

 妹は小学校5年生なのに妊娠していた。相手は彼に虐待を繰り返していた、オッちゃんだった。

「もう、アタマの中、真っ白ですわ。出刃持って家に帰りましたら、ケツまくって逃げた後やったです。あの時、もし、そのオッちゃんが家に居ったら、間違いなく殺人がおれの前歴に刻まれとった思います。

 ヤクザになったんは、それから数年してからです。動物園とかに連れて行ってくれたアニキと、久々に街で会いまして、『おまえ、どないしてんのや』言うんで、『まあ、不良やっとります』言うたんです。そしたら『そうか、ブラブラしとんのやったら、おれんとこ来い』と言うてくれました。

 それからですわ、ヤクザなったの。『よし、おれはアニキだけ見て生きてゆこう。アニキ立てるんがおれの仕事や』と、決心しましてん。アニキと看護婦の嫁さん、それとおれの3人での生活がはじまったんです」

 もちろん、同様の、あるいはそれ以上の苦労をしても真っ当な人生を歩んだ人もいることだろう。だから安易に「社会が悪い」などと言って、彼を免罪する必要はないかもしれない。廣末氏は、この元ヤクザから金銭的被害をこうむったこともあり、彼とはいい別れ方をしなかった、とも述べている。

 しかし一方で、このようなケースを減らしていく努力をすることは、社会全体の安定、安全につながる可能性は高い。廣末氏はそう考えて、元ヤクザらから証言を集めている。

デイリー新潮編集部

2016年7月26日掲載

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