イチローが42歳にして“昨季とはまるで別人”になれたワケ

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 かのピート・ローズが持つ大リーグ通算安打記録4256を上回り、メジャー3000本安打の達成も間近。頂点を極めるマーリンズのイチロー外野手(42)である。

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マーリンズのイチロー外野手(42)

 昨年、ヤンキースからフリーエージェントとなり、1年契約でマーリンズへ移籍したイチロー。その初年度は“どん底”のシーズンであった。

「ホームでの開幕戦に代打で出場した際、ファンからスタンディングオベーションで迎えられたことに『心が動いた』と感激していました。が、6月半ばから失速。連続無安打の自己ワースト記録を34まで伸ばしてしまった。主力のケガや不振もあって出番は153試合と多かったものの、結局は安打数91、打率は2割2分9厘と、メジャー移籍後の自己最低成績に終わったのです」(運動部記者)

 それが今季は、打って変わり、

「限られた出場機会で複数安打を放つなど、確実に結果を残しています」

 とは、メジャーリーグ評論家の福島良一氏である。

「新監督のドン・マッティングリーが『第4の外野手』という位置づけで、適度に休養させながら上手く起用している成果でしょう。イチローがいかに鍛錬を怠らない選手とはいえ、42歳という年齢を考えると、現在の出場ペースが丁度よい。それが抜群の集中力に繋がっているのだと思います」

 同じくメジャーリーグ評論家の友成那智氏も、“ピート・ローズ超え”を果たした6月時点での数字を元に、こう分析していた。

「昨季とはまるで別人です。例えば2割8分2厘だった出塁率は、今季はこれまで3割9分4厘。内容を見ても、昨季は打球に力がなかったため、ゴロが内野を抜けずに低打率の要因となりました。全盛期はそれでも走力で内野安打にできたのですが、やはり年齢とともに困難となるものです」

 その点、今季はスイングスピードの速さでカバーしているというのだ。

「米国の野球データ専門のファングラフス社が発表している数字で、球種ごとの打撃成績を示す『ピッチバリュー』というデータがあります。ゼロが平均点で5点以上がエクセレントの評価になるのですが、イチローの場合、スライダーやチェンジアップに対しては大きな変化が見られません。ところが、速球系に対しては昨季がマイナス15・9と散々だったのに、今季はプラス6・7と、目を見張る成績が出ている。また、三振率も14年が17・7%、昨季が11・6%だったところ、今季は4・7%と激減しているのです」

 かりに昨年と大差なしであれば“引退”の文字が脳裏をかすめたであろうが、これでは手応えを感じざるを得まい。さらに、

「打球の『ライナー率』も、メジャー平均では16%ほどなのに、イチローは今季28・2%と突出しています。こうしたデータは、42歳にしてバッティングがパワーアップしていることの証に他なりません。従来の彼は追い込まれると待ち球をスライダーに絞り、ストレートやカーブはカットして三振を防いできましたが、今季は待ち球をストレートに変えたことで、結果、速球に力負けせず打ち返すバッティングができているのだと思います。常に課題を見定めて冷静に修正してくるのですから、驚くばかりです」

 ほどなくメジャー3000本安打という、もう1つの節目を迎えることになる。

「マーリンズはメジャーでも有数の不人気球団。ナ・リーグでの観客動員数は未だに最下位ですが、ここぞとばかり電光掲示板にイチローの通算安打を表示するなど、お祭りを盛り上げようとしています」(同)

「特集 祝4257安打! 前人未到の大記録達成! 偉大な『イチロー』と『チチロー』の完璧なる断絶」より

週刊新潮 2016年6月23日号掲載

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