孫正義に「あなたはウソつきだ!」――修羅場続きだったアローラ副社長との関係
ソフトバンクグループの孫正義社長(58)から経営を引き継ぐはずだったニケシュ・アローラ副社長(48)が、6月22日の株主総会をもって退任となった。その理由について、孫氏は“急に社長を続けたくなった”と説明し、アローラ氏も自身の“円満退社”を強調する。しかし、二人の間には経営の考え方を巡る深い溝があったという。例えば、アローラ氏が指揮をとったソフトバンクのインド投資について、「孫さんは銀行など外部関係者のいる席で“もっと壮大なスケールの投資をお願いしていたはずだ”と言いだし、周囲をしらけさせました」(ソフトバンク関係者)
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二人の間には経営の考え方を巡る深い溝があったという
こうした事例は、枚挙にいとまがない。
「中国の電子商取引大手アリババのビジネスの方向性を巡っても、二人の立場は違いました。去年、米ヤフーが、所有するヤフージャパン株の売却方針を示唆しましたが、年間800億円のキャッシュを生むヤフージャパン株がライバル社に買われるのは、ソフトバンクには都合が悪い。しかし、入札になると必要な数千億円がないので、孫さんを尊敬するジャック・マー会長率いるアリババに買ってもらうのはどうかと孫さんが言いはじめた。しかし見返りに、アリババの通販サイト“淘宝(タオバオ)”の拠点を日本に作る手助けをするという話に、ニケシュは“その提携は必要ない”と反対。孫さんは“俺がまとめるから黙ってろ”とはねつけました。数カ月後、ニケシュが“あの話はどうなった?”と聞くと、孫さんは“何のことだ? そんな話はしていない”と言いましてね、ニケシュは“それはウソではないか!”と言ったんです」
孫氏の発言や行動にはパターンがあるそうで、この関係者はこう説く。
「最初に夢をぶちあげ、実現可能だと言う。しかし不可能をできると言ってしまうから、結局、ウソになるんです。実現の期限が近づくと、孫さんがとる行動は二つ。怒るか、全然違うことを言いはじめるか。ニケシュは孫さんのことを“趣味でやっているだけ”と言っていました」
■あなたはウソつきだ!
一つの例について、ソフトバンクの電源開発事業の関係者が語る。
「孫さんは、あくまでソフトバンクグループとして取り組むエネルギー事業に価値があるとして、太陽光発電や風力発電を組み合わせた壮大な電力事業を描いていました。ただ、そもそも収益性に疑問があるばかりか、実現にはアジア各国との間での政治的な取り組みも必要。アメリカでの通信事業さえ当局に阻まれて実現できなかったのに、この壮大な計画に4000億円以上の資金を投入すると言うので、ニケシュや周辺も“夢はわかるが、さすがに無理だろう”と言っていた。途中から銀行側も話を知り、ブレーキをかけました」
続いて、ロボット事業の関係者も証言する。
「昨年、ロボット関連の技術を外部から買い取ると孫さんが言いはじめ、10億円以上の投資の話を進めていました。しかし、それらは高速で稼働したり、姿勢を制御したりする技術で、受付の窓口的なAIや外観をもつペッパーとは方向性が全然違った。そんな技術がペッパー部隊に押しつけられても、持て余してしまう。ロボット事業の急成長を求めた孫さんの要望に耐えかね、責任者らが辞めてしまいましたが、孫さんは“なんで夢のあるロボットを、お前らは作れないんだ”とキレはじめるのです」
そんなこんなで、
「ニケシュはストレートにものを言う人なので、孫さんに面と向かって、“結果としてあなたはウソつきだ!”と言っていた。“もう付き合い切れない”とも伝えていたようです」(同)
要は、修羅場続きだったというのだ。また、別のソフトバンク関係者によれば、こんなこともあった。
「昨年、ニケシュがグーグルから連れてきた“チームニケシュ”の主導で、本社機能をイギリスに移す計画が持ち上がった。法人税が安いうえ、インドへの投資が、旧宗主国のイギリスに拠点を置くと円滑に進むというのですが、日本のスタッフはおもしろくない」
それが、アローラ氏と古参幹部との間の軋轢を生んだというのである。
「特集 ソフトバンク円満退社の裏側は修羅場 『孫社長』を『ウソつき!』と面罵した『アローラ』副社長」より