「支持政党なし」議席獲得の可能性――騙される有権者が200万人いるとも

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 俗に、選挙戦は地盤・看板・カバンの「三バン」が肝要とされる。それらに縁遠いミニ政党や泡沫候補は、ひたすらアイデアを巡らせ、間隙を縫って戦うわけだが、今回の参院選には身も蓋もない手を繰り出す団体が登場した。その名も「支持政党なし」。何と、議席獲得まで現実味を帯びているのだ。

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「4連ポスター」

 6月22日の公示後、東京選挙区の候補者掲示板には、

〈支持政党なし〉

 と書かれたポスターが4枚並んで貼られている。候補者名は書かれておらず、代わりに目立つのは「政策一切なし」との文言。全国紙政治部記者によれば、

「政党である『支持政党なし』は、東京以外にも北海道、神奈川、大阪、熊本の各選挙区で候補者を立て、さらに比例代表でも2人を擁立しています」

 比例区の候補である同党の佐野秀光代表(45)は、東京・大田区で「情報通信ネットワーク」社を経営する実業家。2009年には衆院選で「新党本質」代表を名乗って立候補、また12年の衆院選にも「安楽死党」代表として臨み、いずれも落選している。が、一昨年の総選挙では、看過できない存在になっていた。

「比例代表北海道ブロックに2人の候補者を立て、10万4854票を獲得したのです。これは社民党の5万3604票、次世代の党の3万8342票をはるかに上回るものでした」(同)

 得票率は4・19%。単純比較はできないものの、試みに全国区に置き換えると、

「たとえば10年の参院選で社民党は比例区で3・84%の得票率で2議席を獲得している。13年は2・35%で1議席。票数でいえば、現在社民党は全国でざっと100万票。彼らはその2倍の200万票を持っている計算になる。このままでは、議席を得る可能性は大いにあります」(同)

 選挙のつど注目される「無党派層」。都市部では、その動向が帰趨を左右するといっても過言ではない。むろん政党名と知って投票する有権者もあろうが、2年前の北海道でも懸念されたのが“勘違い投票”である。

■できないことは言わない

 総務省は今回、同党の略称として「支持なし」「支なし」も認めるとし、混乱に拍車がかかるのは必至。佐野代表に聞くと、

「党の結成は13年7月。世論調査で『支持政党なし』の有権者が非常に多く、そうした方々の受け皿になりたかったのです。『間違って投票する人もいる』との声もありますが、その方の思いは間違っていません。最もいけないのは『これを実現します』と政策を掲げながら実行しないこと。有権者を騙す詐欺行為です。我々はできないことは言いません。責任を持って『政策なし』と言っているのです」

 で、仮に当選した場合、

「有権者の使者となり、議決が必要な法案などについてネットで賛否を集め、その結果を国会に提出します。これを我々は“電子的直接民主主義”と呼んでいます」

 というのだ。選挙制度に詳しい日大の岩井奉信教授(政治学)は、

「有権者を惑わす、罪作りな団体だと思います。本来であれば認めるべき党名ではありませんが、憲法の結社の自由との関わりで規制は難しい。ポスターや政見放送で中身を判断した上で投票してください、としか言いようがありません」

 果たして、漂流する200万票の行方は――。

「ワイド特集  富める時も貧しき時も」より

週刊新潮 2016年7月14日号掲載

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