あの痴漢防止ポスター、不思議なテンションは「画力が足りないから」と作者

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「痴漢です!!!」

 声を上げた女性は、その内容とは裏腹に、妙に落ち着き払い、クールな表情。

「大丈夫ですか!?」

 警察官が駆け寄り、劇画風に描かれた乗客の男女が、ダメ出しのセリフ。

「卑劣な!」「許せん!!」

 70年代風の描写と、登場人物たちの不思議なテンションが目に飛び込み、通勤ラッシュのなか、足を止めた方も多いのでは。関東の鉄道会社19社局と警察庁、警視庁などが、6月17日まで掲示した「痴漢撲滅キャンペーン」ポスターである。

 実施社のひとつJR東日本によれば、2010年から続くキャンペーンで、従来は啓蒙ポスターにありがちな、抽象的な絵を使用していた。漫画風になったのは、3年前からのことだ。

「痴漢に遭われたお客様が自分で声を出すのは難しい状況にあります。そのため、周囲のお客様が異常に気づき、声を掛けることが被害から救うきっかけになるという構成にしています。こうしたストーリーを表現するには漫画が有効だと考え、本年も漫画タッチのデザインにしました」(JR広報)

 これまでに4枚のポスターが制作され、楳図かずお風のホラーテイストや、80年代少女漫画の雰囲気が漂うものも。毎年、作者が違うかのようだが、実は、同じ人物が描いていた。

右端が今年のもの

「この仕事をしてから、電車に乗る時、必ず、両手を上げておくようにしています」

 と言うのは、ポスターをデザインした師岡とおるさん(43)。漫画家ではなく、イラストレーターである。

「漫画には時代ごとに画風があると思っていて、最初は70年代ならこんな感じかなと。評判が良かったので、次の年は、80年代風に。今年は一周して劇画風に戻しました。漫画は描けないので、漫画家さんへのオマージュです。妙なテンションに見えるのは、意識して描いているわけではなく、ボクに画力が足りないからです」

 ポスター本来の目的からすれば、足を止めさせ、大成功。警視庁管内では、痴漢の認知件数は減少傾向というが、さて来年は?

週刊新潮 2016年6月23日号掲載

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