史上最高益を更新! マツダの大復活を生んだ「弱者の戦略」――いま、広島が熱い!(1)

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 広島を代表する会社、マツダの業績が絶好調だ。昨期まで3期連続で営業最高益を更新しただけでなく、2012~2013年にSUV(スポーツ用多目的車)の「CX-5」、2014~2015年に小型車「デミオ」、2015~2016年にスポーツカー「ロードスター」と、ここ4年でマツダ車が3度も「日本カーオブザイヤー」を獲得。新技術のエンジン「スカイアクティブ」を搭載し、「魂動デザイン」をまとった近年のマツダ車は、特にクルマ好きを中心に熱い支持を受けている。かつて住友銀行やフォードに「支配」され、「単独での生き残りは難しい」と言われ続けた弱小メーカーのイメージは、完全に払拭された。

 なぜマツダは大復活したのか。日本経済新聞の広島支局長で、新潮新書『広島はすごい』の著者、安西巧氏によると、その理由は「弱者の戦略」を徹底させたからだという。

マツダ「CX-5」

■「1番ピン」のみを狙う

「大手であればガソリンエンジンとディーゼルエンジンだけで1000人体制の部門にマツダは30人しかいなかった」

『広島はすごい』の中で、スカイアクティブエンジンの生みの親と言われるマツダの役員は、2012年の欧州の二酸化炭素排出規制に備える取り組みに着手した当時(2006年)のマツダの人員の乏しさをそう証言している。

 お金も人も足りないマツダには、ハイブリッドや電気自動車に対応している余裕はない。そこで、ロータリーエンジンなど独自の技術の蓄積がある内燃機関の改善に賭けることにした。

 内燃機関の効率を妨げているものとしては、排気損失、冷却損失、ポンプ損失、機械抵抗損失の4つがあり、これらを制御するには、①圧縮比、②比熱比、③燃焼機関、④燃焼タイミング、⑤壁面熱伝達、⑥吸排気行程圧力差、⑦機械抵抗、の7つの因子を考慮しなければならない。

 マツダはこのうち、圧縮比、吸排気行程圧力差、機械抵抗の3つの改善に絞った。人数が少ないなら、力を分散させずに集中して1つのポイントを攻め、それを全体に波及させる方が勝機が高くなる。ボウリングで言えば、「1番ピン」を倒す戦略に賭けたのだ。

 この戦略が奏功した。マツダは内燃機関におけるそれまでの圧縮比の常識を疑い、検証を繰り返すことで、常識を打ち破ったのだ。その結果、新技術「スカイアクティブ」を導入した小型車デミオでは、ハイブリッド車にも匹敵するリッター30キロという低燃費をたたき出すことに成功した。

■実を結んだ「モノ造り革新」

 優れた技術があったとしても、それだけでは「商品」にならない。斬新な車を次々と市場に送り出せた背景には、マツダの先進的な計算解析技術(CAE=Computer Aided Engineering)の下支えがあった。

 人員と資金が限られるマツダでは、各種部材について試作と改良を頻繁に重ねるわけにはいかない。その代わりにコンピューター解析の精度を上げることに力を注いだ。

 これは副次的な効果も生んだ。従来、CAE技術者の多くは、商品開発部から依頼が来たものを計算して答えを出すという「請負体質」に染まっていたが、先行開発段階から多様なシミュレーションを繰り返すようになったことで、CAE技術者の「当事者意識」が高まったのだ。思いついたことをすぐに検証できる環境ならば、おのずとモチベーションも上がるし、アイデアの数も増えてくる。

 2006年から始めたこの「モノ造り革新」が6年後に実を結び、2012年からのマツダの大躍進が始まったのだ。

デイリー新潮編集部

2016年6月20日掲載

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