「不適切」連発の舛添知事会見はなぜ見る人をイラつかせるのか 梶原しげるさんの解説

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■「ご心配」の空しさ

「第三者」の調査結果をもってしても、批判を鎮めることはできなかった舛添要一都知事。6日に行われた会見で、調査を担当した弁護士は「違法性はない」と説明したものの、世論の共感は得られなかったようだ。

 舛添知事は会見でどのように振る舞うべきだったのだろうか。

 これまで2度にわたって、舛添氏のテクニックを分析してきた梶原しげるさんに聞いてみた。ちなみに、今回の会見では「不適切」という言葉が連発されたが、奇しくも梶原さんの新著のタイトルは『不適切な日本語』である。

舛添要一都知事

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 これまで舛添さんの会見を見ていて、ひっかかったのは「ご心配をおかけして」というフレーズです。

「都民の方々にご心配をおかけしていることを心からおわびします」

「湯河原への公用車利用について、都民の皆様ならびに都の職員にも大変なご心配をおかけしているところでございます」

 でも、誰も心配はしていません。怒っている人、呆れている人は多くいるでしょうが、心配しているのは、おそらくご家族や身内のスタッフだけでしょう。

 舛添さんに限らず、よくこういう場で「ご心配をおかけして」と言う方はいます。常套句を使うということは無難ではありますが、心から思っていないのでは?という疑念を見る側に与えることにもつながるのではないでしょうか。

 実際、「ああ、舛添さんは他人に心配をかけていることを反省しているんだなあ」なんて思った人はいないでしょう。

 むしろ空々しいと感じた人が多いはずです。

■「たい」の連発

梶原しげるさん

 さらに今回気になったのが「~たいと思います」の連発でした。

「批判を受けることに値するような、極めて恥ずかしい行動をとってきたということについて、心から反省したいと思います」

「粉骨砕身で都政の運営に努めて参りたいと思います」

「宿泊費や飲食費の支出について、これは返金したいと思います」

「慈善団体に寄付したいと思います」

 といった調子です。とにかく「~たいと思います」連発です。

 このように断定を避ける言い方は、おそらく後々突っ込まれないための方策なのでしょう。

「お前、あの時、ああ言ったじゃないか!」

 と言われても、

「いや、そうしたいと思います、と言っただけで、やると断言はしていません」

 と言い返せるように、という気持ちが働いているように見えます。

 しかし、もともと舛添さんの魅力とされていたのは、断定的な言い切りだったはずです。「自民党の歴史的使命は終わった」といった断定的な物言いが、潔いと思われていたのです。その潔さを放棄してしまっている点が気になりました。

「~たいと思います」といった言葉癖は、聞く方の耳にひっかかります。そして無意識に「この人は逃げているな」といった印象を与えてしまうのです。


■理屈っぽさも仇に

 一方で、もう一つの“魅力”である「論理性」は健在でした。「不適切であるが違法性はない。だから辞任はしない」という論理を報道陣は崩すことはできませんでした。

 しかし、だからといって共感を得られるわけではありません。むしろ、言いくるめられたような気持になり、反感を覚える人が多かったのではないでしょうか。

 ここでは、本来の武器である「論理性」がむしろ仇になったような気がします。

 舛添さんにアドバイスする立場ではないのですが、今回、多少なりとも共感を得るために残されていた手は「鬼の目にも涙」だったのだと思います。

 これまで強気と理屈で押し通してきた彼が、じわっと涙を浮かべて、しばらく言葉に詰まる、といった場面があればまだ(ごくわずかにしても)同情を買っていたかもしれません。

 しかし、それができなかったあたりは舛添さんの負けず嫌いの性分ゆえでしょうか。

■不適切な関係

 今回連発された「不適切」という言葉から思い出されるのは、ビル・クリントン大統領の「不適切な関係」疑惑です。

 あの時、妻以外と「不適切な関係」を持ったことで窮地に陥ったクリントン大統領を救ったのは、妻のヒラリーさんでした。

 本来ならば一番の被害者であるヒラリーさんが、複雑な感情はあったでしょうが、最終的には赦す姿勢を見せたことで世論は納得したのです。

「大統領も奥さんには頭が上がらないんだな」といった感想が、共感につながりました。

 そう考えると、頭が上がらない相手、怒ってくれる相手がいることは、救いにつながる気がします。東国原英夫さんも、政治家時代、師匠であるビートたけしさんが何かとツッコんだり、ギャグにしていたことが好感や共感につながっていました。

 残念ながら舛添さんには「コラッ!」と叱ってくれる人がいないように見えます。さすがに今回の経緯からして、奥様が登場するわけにもいかないでしょうし……。

 これもまた「トップリーダー」ゆえの不幸なのでしょうか。

梶原しげる/デイリー新潮編集部

2016年6月9日掲載

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