「入籍」と「結婚」は別モノ! 意外と知られていない「正しい用法」を梶原しげるさんが解説

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■「私、入籍しました」は誤用?

 かつてはファクスや記者会見での発表が主流だったが、最近は、ブログで結婚の報告をする有名人が多い。6月5日には、元アイドリング!!!のメンバーでタレントの谷澤恵里香さん(25)が結婚をブログで発表した。

「私事で大変恐縮ではございますが、かねてよりお付き合いをしておりました方と本日、入籍したことをご報告させていただきます」で始まるブログは、「運命の恋、ひろいました」と喜びあふれる文章が詰まっていて微笑ましい限りである。

 ところで、この一件を伝えるスポーツ新聞を見てみると、「谷澤恵里香 入籍」という見出しと「谷澤恵里香 結婚」という見出しがあることに気付く。

「入籍」と「結婚」。

 同じような気もするし、どっちでもいい気もするのだが、実は別物。

 その違いについて、新著『不適切な日本語』でも、この「入籍問題」について触れているフリー・アナウンサーの梶原しげるさんに解説をしてもらった。

梶原しげるさん

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 芸能ニュースに限らず、日常会話でも、

「僕、入籍しました」

 とか

「入籍はいつなの?」

 といった表現を耳にすることは珍しくありません。

 しかし、実はこうした場合、正確に言えば、「入籍」は避けたほうが良いのです。

 私はサラリーマン時代に、先輩から

「結婚を入籍と言うのは避けたほうが良い。結婚とそのまま言うか、婚姻と表現する。入籍届を出した、ではなく、婚姻届を提出した、だ」

 と教え込まれました。

 入籍とは「それまでの戸籍から削除されて、他の戸籍に記載されること」です。

 戦前の旧民法の考えでは、多くの場合、女性は男性の「イエ」に入ることとされていたので、「妻は実家の戸籍から削除されて、夫の戸籍に入る」のが普通でした。つまり「入籍」です。

 しかし、戦後の新民法の下では、男女が結婚する場合は「二人で新しい戸籍を作るのが基本」です。だからほとんどの場合、新戸籍を作るわけで、「入籍」はしません。

 現代において、考えられる入籍は「生まれた子が父母の戸籍に“入る”」ケースや、「養子縁組で養子が養親の戸籍に“入る”」ケースでしょう。これらは確かに「入籍」です。

 しかし、それ以外の普通の結婚は「入籍」ではありません。

「細かいことガタガタ言うなよ。いいじゃねえか、めでたい話なんだから」

 と言われれば返す言葉もありません。

 実際に、これだけ「入籍≒結婚」という風に捉える人が多い以上は、目くじらを立てる話ではないでしょう。

「『結婚しました』だと、ちょっと軽い感じがするけど、『入籍しました』だと、少しだけ重々しさも出るし、響きもいいんですよね。それに『結婚』というと『結婚式』と混同されそうですし」

 こんな意見を聞くこともありました。

 結構、説得力のある意見です。

 それでも私がひっかかってしまうのは、かつて討論番組などで「性の商品化 是か非か」といったテーマで、フェミニストの方々とお仕事をした経験があるからかもしれません。あの頃、もしも彼女たちを前に「入籍」などといった言葉を安易に使ったら、

「あなたのような男性中心のバカがいるから、女性の地位は向上しないのです!」

 と吊るし上げをくらっていたかもしれないのです。

■用紙のサイズも違う!

 実際に「入籍届」「婚姻届」を受理する立場の役場の方たちは、この件についてどう考えているのか。興味がわいたので聞いてみたことがあります。

 すると、

「『入籍届』を出したい、という方は多くいらっしゃいますが、大抵は『婚姻届』を出したい、という方です。『入籍届』と『婚姻届』では用紙の大きさからして違います。前者はA4、後者はA3です。

 実際にはお顔を拝見すれば、『入籍』か『ご結婚』かは大抵、分かりますから、『ご結婚のお届けですか?』といった聞き方で確認してから用紙をお渡しするようにしています。そう申し上げると、ほとんどの皆さんは笑顔でにっこりされますので、A3の用紙をお渡ししています」

 とのことでした。

 ちなみに、今年1月に結婚なさった歌手のDAIGOさんと女優の北川景子さんの結婚会見は金屏風の前という「古風なスタイル」が話題を呼びましたが、お二人は一貫して「入籍」を用いずに「結婚」と仰っていました。

 あの会見の好感度が高かったのは、お人柄などもあったでしょうが「正しい日本語」にこだわっていたあたりもポイントだったのかもしれませんね。

 個人的には、新聞やテレビなどはやはり「結婚」と表現したほうが良いような気がします。 ただ、日常会話で誰かが「入籍した」と喜んでいるときに「その言い方は間違いだ。なぜなら……」なんてことは言わないのが大人のたしなみというものでしょう。そんなことをブツブツ言っていると私のように、うるさいおっさん扱いされるのがオチです。

梶原しげる/デイリー新潮編集部

2016年6月8日掲載

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