五輪招致委の贈収賄疑惑にも関与? 電通が握る“スポーツ利権”

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 東京五輪招致委員会が、ペーパーカンパニーの可能性が高いコンサルタント会社「ブラック・タイディングス」社(以下ブラック社)に2億3000万円を振り込んでいた問題。その疑惑を招致委関係者に解説してもらうと、「ブラック社の代表の親友であるセネガル人のパパマッサタ・ディアクは、当時、IOC委員で五輪開催地を決める投票権を有していたラミン・ディアク国際陸連会長を父に持つ人物。ラミン・ディアクや、彼が影響力を行使できる人の票を買うために、招致委はブラック社を通じてディアク側に金を流したと見られている」

 民進党の「オリンピック・パラリンピック招致裏金調査チーム」の座長を務める玉木雄一郎代議士が、さらに補足する。

「東京招致が決まったのが13年9月。その直前の7月に1億円、そして10月に1・3億円が招致委からブラック社に支払われています。時系列上は、開催都市を決める投票での票の取りまとめを依頼するためにまず1億円、招致が成功したのでその報酬として1・3億円がブラック社に送金されたように映る。外形的には票を金で買ったとしか思えず、『真っ黒け』です」

JOCの竹田恒和会長

■電通の“実績確認”

 そもそも、ブラック社のような実態が疑わしい会社に、招致委が2億円超の金を振り込んだ経緯はどのようなものだったのか。5月16日、衆議院予算委員会に参考人として出席したJOCの竹田恒和会長は、こう答えている。

「今回は本人(ブラック社の代表)から売り込みがありました。そして、電通さんに実績を確認しましたところ、充分に業務ができる、実績があると伺い、(招致委の)事務局で判断したと報告を受けております」

 再び玉木氏が疑義を呈する。

「そうだとするならば、明らかにペーパーカンパニーと思われるブラック社について、電通がどういう調査をしたのかがひとつの焦点になってきます」

 電通広報部は、

「招致委員会から当社に照会のあった複数のコンサルタントに関して、当社は知る範囲で各氏の実績等についてお伝えしました」

「招致委員会とイアン・タン氏(ブラック社の代表)とのコンサルティング契約には、当社は一切関与しておりません」

 と答えるが、玉木氏は電通への疑念を募らせる。

「WADA(世界ドーピング防止機構)の報告書には『電通』という言葉が複数回出てきますし、これまでも電通は『スポーツ利権』に深く関わってきた。例を挙げると、ラミン・ディアク氏が国際陸連の会長を辞める直前に、電通は国際陸連との独占マーケティング契約を大幅延長。ディアク氏との深い関係が疑われます。したがって今回の疑惑にも電通が関わっていたのではないかと見られているのです」

 全国紙の運動部デスクが後を受ける。

「例えばJOCにプレゼンする際、他社は、うちに仕事をさせてもらえればこれだけの儲けが出るはずですと見込みを提示するのに対し、電通は最初から利益の額を最低保障し、絶対にJOCに損をさせないようにする。JOCにしてみれば、電通に任せようということになる。結果、長野五輪以降、日本での世界的なスポーツの大会は、ほぼ全て電通が仕切っています」

■マイク・タイソンも日本に招聘した“電通のキーマン”

 こうして、スポーツビジネス界で絶大なる力を持つ電通サイドのキーマンとして取り沙汰されているのは、

「『イ・アイ・イ――インターナショナル』の高橋治則(はるのり)元社長(故人)の、実兄である高橋治之(はるゆき)さんです」(同)

 高橋治則氏といえば、バブル時代に「環太平洋のリゾート王」との異名を恣(ほしいまま)にしたものの、バブル崩壊後にはイ・アイ・イが倒産した挙句、いわゆる二信組事件に絡んで背任容疑で逮捕されるという、浮き沈みの激しい「ザ・バブル紳士」として知られた。その兄の治之氏は御年72で、

「電通のスポーツ部門で剛腕を発揮し、専務に上り詰め、11年まで電通の顧問を務めていました。今回、フランス検察の動きの第一報を報じた英紙ガーディアンの記者が、日本の情報誌に寄せた原稿には治之さんの名前が出ていて、彼とラミン・ディアクとの関係が仄(ほの)めかされています」(同)

 治之氏と面識がある山口敏夫元労働相曰く、

「治之は、30代の頃から運転手付きの自家用車で電通に通っていました。弟の経済的バックアップがあってこそだったんでしょうが、確かに彼のスポーツ界での人脈は凄かった。1977年にサッカーの神様、ペレの引退試合を日本でやったり、88年にマイク・タイソンを日本に招聘できたのも彼の力によるものでした。タイソンの試合では、私も治之からリングサイドのチケットをもらったものです。今回の疑惑に電通が噛んでいるとすれば、そこに治之が関係している可能性はあるでしょう」

 また先の運動部デスクは、

「治之さんは、弟の治則さんのプライベートジェットでFIFA(国際サッカー連盟)の幹部を接待していたと聞いたことがあります。彼は現在、東京五輪組織委の理事を務めていて、五輪招致の仕方に発言権を持っていなかったはずがない」

■当人に尋ねると

 玉木氏も、治之氏についてこんな見解を披露する。

「電通のスポーツ部門は治之氏が仕切ってきた。そしてブラック社の代表と治之氏は、いくつかの会社を挟んで接点があったと報じられています。今回取り沙汰されている『電通』の実態とは、すなわち治之氏のことなのではないでしょうか」

 このように、電通の大立者であったがゆえに、今回の疑惑の「橋渡し役」と見られている治之氏。当人に訊いたところ、

「ラミン・ディアクのことは知ってるけど、ブラック社も、その代表も、今回の報道で初めて知った。電通とはもう関係ないから、電通が、ブラック社は大丈夫と招致委に答えていたことも当然知らなかった。俺はスポーツ界で有名だから名前が挙がったんだろうけど、全く関係ない」

 と、悠然と否定。

 スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏が根本的な問題点を指摘する。

「ブラック社の実績が分からないから電通に問い合わせたということは、JOC側が国際スポーツ界に人脈を持っていないことを物語っています。JOCは、自分たちではコンサルタントと交渉もできないし、調査もできない。したがって、電通の思うまま、電通主導で五輪ビジネスは動いてしまうわけです」

 新国立競技場、エンブレム、そしてブラック社を舞台にした不正疑惑。相次ぐ騒動によって、東京五輪の成功には黒雲が垂れこめていると言えそうだ。

「特集 賄賂? 裏金? 資金洗浄? 妙な会社に2億を払った『五輪招致委員会』と怪しい電通」より

週刊新潮 2016年5月26日号掲載

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