満天の星空みたいに、壁にゴキブリがびっしりと…〈清掃人は見た! あなたの近所の隠れた「汚部屋」(1)〉

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バスタブの中になみなみと…

 業者が口を揃えるのは、依頼主は、男性より女性の方が多めだ、ということ。

 男女比はおよそ半々から3:7ほどになるという。

 テレビなどにも数多く出演しているゴミ屋敷清掃と遺品整理の代行業「孫の手」。ゴミ屋敷清掃だけで1日2軒はこなす佐々木久史社長は、「男と女では、ゴミの質が違う」と言う。

「女性の場合は、血の付いた生理用ナプキンや食べ残しの弁当、腐った食材なんかが目立って、いわゆる“質の悪い現場”なんですよ。それに比べると男性は、同じように弁当箱が散乱していても完食しているし、ほとんど乾いたゴミですね」

 確かに同じゴミでも“乾きもの”の方が臭いも少なく、後始末も容易だろう。

 先の「クリーンエンジェル」Y氏も言う。

「女の子の部屋だと、生理用ナプキンが散乱していたり、テレビの後ろから汚れた下着がいくつも出てきたり。恥ずかしくないのかって? いや、彼女たちはケロッとして言うんだよ。“他のゴミと一緒じゃないですか”って。まあ、部屋全体がゴミためだから、どこに捨てても同じってことだろうね」

 女性の場合、ペットの飼育から汚部屋に至る例も少なくない。

「猫を30匹飼っていたところは部屋中が猫のトイレになっていた。ペットじゃないけどネズミやゴキブリもよくいる。客の前では“出た!”と言いにくいから、うちではネズミを『ミッキーさん』、ゴキブリを『タローちゃん』って呼んでる」(佐々木社長)

 前出のY氏も、大量の土を床という床に敷き詰め、部屋全体がウサギ小屋と化した一室に出くわしたことがある。

 こうした汚部屋の場合、たいてい、トイレや風呂も、口にするのもはばかられる惨状を呈している。

「私が見たのは、バスタブの中になみなみと、モノがたまっていたケースです。トイレが詰まって使えなくなって、そっちでやっていたんでしょうね。名前を言えば、誰もが知っている有名企業に勤めている女性は、部屋の一角に、40センチ四方の塊を作っていました」

 横浜市の代行業者「アクト片付けセンター」の代表取締役・木下修さんは、驚愕の話をこともなげに披露するのである。

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(2)を読む⇒ゴミ屋敷になりやすい職業4割はこういう人たち〈清掃人は見た! あなたの近所の隠れた「汚部屋」(2)〉

福田ますみ(ふくだ・ますみ)
1956年、横浜市生まれ。立教大学社会学部卒業後、専門誌、編集プロダクション勤務を経てフリーに。2007年、『でっちあげ』で新潮ドキュメント賞受賞。今年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞受賞作を書籍化した近刊『モンスターマザー』も話題となっている。

週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

「特別読物 食事中の閲覧注意!『ゴミ屋敷』清掃人は見た! あなたの近所の隠れた『汚部屋』――福田ますみ(ノンフィクション・ライター)」より

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