「トランプ大統領」でどうなる日米安保 9条改正が必要だ

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 戦争をする国にしてはいけないから、軍隊の保持も武力の行使も許さない――。憲法9条を金科玉条の如く有り難がる人々はこう主張する。だが、“日本が在日米軍駐留費を全額負担しないのならば、米軍を撤退させる”と主張するドナルド・トランプ氏(69)の登場で、それも夢物語に過ぎないことがはっきりするという。ならば、その時9条をどうする?

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共産党の志位和夫委員長

 トランプ氏が事実上、共和党の指名候補となったのは、日本の憲法記念日に当たる5月3日夜であった。その日、テレビ番組で共産党の志位和夫委員長は、こう語った。

「私たちは、安保条約をなくした日本が、アジアのすべての諸国と平和的な関係を結ぶ。アメリカとの関係でも友好条約を結ぶ。(中略)そして国民の多数、圧倒的多数が、『もう自衛隊なしでも安心だ』という合意が成熟して、はじめて9条の完全実施に進もうというふうに言っております」

 奇しくも、この「安保条約をなくした日本」が現実味を帯び始めたわけだが、

「在日米軍が撤退すれば、日米同盟は実質的に破綻したも同然です。すると、米国の『核の傘』による抑止力が低下し、千載一遇のチャンスとばかりに、他国が攻撃を仕掛けてくる可能性が高まるでしょう」

 そう話すのは、憲法学者の百地章・日大教授。

「万が一、日本が他国から攻撃された場合、米軍がわざわざ危険を冒してまで集団的自衛権を発動し、グアムやハワイから駆けつけてくれる保証はない。日本の安全保障防衛を、自らの手で担うしかなくなるのです」

トランプ氏

■あくまで警察組織

 しかし、その時、ネックになるのが、憲法第9条2項の《陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない》との文言だという。

「この規定がある限り、自衛隊はあくまでも『軍隊』ではなく『警察組織』である、という法的な建前を崩せません。軍隊なら、非軍事的施設への攻撃など国際法上の禁止事項に触れない範囲で自由に武力行使ができますが、警察組織は国内法で定められた武器の使用しかできないのです」(同)

 例外として自衛隊に武力行使が認められるのは、日本が他国から武力攻撃を受け、内閣総理大臣が防衛のために出動を命じた場合だけである。

 それも、元海将で金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏によると、

「剣道でいえば、相手の竹刀を払うことはできても、こちらから向こうの面や胴を打つことができない。9条2項に関する政府の解釈は、『自衛のための必要最小限度の実力行使は可能』とする一方、相手国の領土への攻撃は『必要最小限度を超える』というものです。敵基地を攻撃して脅威を断つことができない以上、自衛隊が独力で自国を守り切るのは、難しいのです」

 京都大学の中西輝政名誉教授が、こう指摘する。

「トランプ氏は皮肉なことに、平和ボケしている日本人の目を覚ます好い機会を与えてくれました。在日米軍撤退という事態になれば、9条2項を改正し、自衛隊を正規の『軍隊』として再発足させ、自主防衛の役割を担うべきだ、という気運が高まるでしょう」

 志位委員長も現実と向き合わないと、ね。

「特集 ムリが通れば『安保』が引っ込む? 露悪家『トランプ』有言実行の吉凶検証」より

週刊新潮 2016年5月19日菖蒲月増大号掲載

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