伊勢志摩サミットで厳戒態勢 人口100人の賢島に警官20000人

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 島内を行き交う車は、もはやパトカーばかりである。しかも、そのボディに躍るのは北海道警や警視庁、大阪府警に鹿児島県警の文字。三重県志摩市は英虞(あご)湾に浮かぶ周囲約7・3キロ、人口100人余りの賢島(かしこじま)には、全国から集結した2万人の警察官がひしめき合う。早くも“本番”さながらの厳戒態勢が敷かれる現地の様子をレポートする。

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 物見遊山で「志摩観光ホテル」を訪れたのだろう。大型バイクに跨(またが)った茶髪のヤンキー青年がエントランスに近づく。すると、物陰から1人、また1人……。瞬く間に10人近い警官に包囲された彼は、顔を硬直させて戸惑うばかり。

 荷物から違法薬物が見つかったワケでもないのにこの騒ぎである。それもそのはず、このホテルは今月26日、27日に迫った伊勢志摩サミットのメイン会場なのだ。

「ゴールデンウイークが明けると、島のホテルは警官だけで一杯になるから、観光客は宿泊させないって聞いてます。まぁ、今月は商売あがったりですよ」 

 嘆息するのは長年、賢島で土産物店を営む男性だ。

「住民にもIDカードが渡されて、それがないと島の中を出歩けません。それより厳しいのは島への出入りです。島の外から自家用車で橋を渡って通勤するホテルの従業員もいるんだけど、今後はマイクロバスに乗らないと島に入れなくなる」

 すでに本土と繋がる2カ所の橋や島内の主要な道路はもちろん、雑木林に続く小道にまで、くまなく制服警官が配置されている。

「24時間3交代制で警備に当たっていますが、林の中で立ち番をすると、タヌキに出くわすこともある」

 と苦笑するのは警視庁から派遣された若い警官だ。

 三重県警関係者によれば、

「8年前の洞爺湖サミットでは2万1000人の警備体制を敷きましたが、今回はそれ以上の警察官が動員されます。というのも、各国の要人は中部国際空港からヘリで会場に向かう予定ですが、天候が悪いと陸路を使う可能性もある。そうした事態を考慮して、約200キロの道中も警備する必要があるんです」

■ドローンに警戒

 目下、この長閑(のどか)な島には大阪府警の全警察官とほぼ同じ人数が投入されている計算だ。彼らが宿舎代わりに使っている別のホテルは客室の窓が目張りされ、駐車場にはずらっと数十台のパトカーが並んでいた。

厳戒態勢の伊勢志摩サミット現地

 その様子をパシャパシャと撮影していたら、

「今日は観光ですか?」

 どこからともなく現れた制服警官が声を掛けてくる。

 それを無視すると、

「何を撮ってるんですか。どういったお仕事?」

 酒に酔って帰宅する途中に職務質問されるのは慣れっこだが、明らかに目の色が違う。周囲の警官も警戒モードに……。マズい。

 慌てて記者だと明かしても一向に解放してくれず、

「どこの社ですかね。身分証はないの?」

 と畳みかけてくる。謝り倒してそそくさとその場を去るしかなかった。

「殺人事件も起きないような土地柄なので、私らもいちいち驚いてますよ」

 と、志摩市商工会の担当者。

「サミットに備えて、警察の警備担当者とは何度も研修会を開いてきました。特に強調されたのは、首相官邸に落ちて騒ぎになった“ドローン”です。分解するとリュックサックに入れて持ち運べるそうで、怪しい荷物があったらすぐに知らせてほしい、と。イスラム国についても詳しく説明されたけど、まさかこんな島でテロリストに警戒しなきゃならないとはねぇ」 

 風薫る季節を迎えたものの、風光明媚な小島には賑わいではなく、緊張感だけが漲(みなぎ)っているのだ。

「ワイド特集 風薫る日に綱渡り」より

週刊新潮 2016年5月19日菖蒲月増大号掲載

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