安倍政権の緩みがちらついた「熊本地震」対応 震災からわずか4日でTPP審議を行うおかしさ

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 政府とのテレビ会議でおにぎりの差し入れを要求、わずか6日で熊本地震の現地対策本部長からひきずり降ろされた松本文明・内閣府副大臣を始めとして、熊本地震への対応を巡っては安倍政権の杜撰な対応が目立つ。

地震で倒壊した家屋

 危機管理コンサルタントの田中辰巳氏は、

「九州選出の国会議員は、今こそ地元に帰るべきです。本来、国会でTPPや衆参同日選挙の話をしている場合ではないはずです」

 そう説くのだが、実際に選良の集う場では、被災地そっちのけの議論が展開されていた。折しも、衆院TPP特別委員会が4月18日に再開。当日、質問に立った民進党の緒方林太郎議員が言う。

「我々は委員会を『やるべきではない』と反対してきたのですが、与党側が『総理の強い意向で』と言う。TPP審議は長らく止まっており、時間を取り戻したいのはわかりますが、なぜ地震から4日しか経っていない時に開くのか。だから私は『今審議する必要はあるのか』と質問したのですが、安倍総理は『どのような案件につき議論するかは国会に決めてもらい、政府として説明責任を果たす』としか答えませんでした」

 この審議には、河野太郎防災担当相も出席していた。

「震災対応の最高指揮官とそれを補佐する大臣が、揃って7時間も審議で拘束されてしまったわけです。『何かあった時は逐一報告を受けて対応する』とは言っていましたが、果たして危機管理のあり方として正しいのか、大いに疑問です。結局与党は、今国会では法案を成立させない方針を決めました。それではあの18日は何だったのかと、違和感は拭えません」(同)

■遅れた「激甚災害指定」

熊本県南阿蘇村の崩落した道路

 いわば復興への「不作為」ともとれるわけだが、奇異に映る事柄がもう1つ。道路や農地などの復旧事業への国の補助率が嵩上げされ、自治体の財政負担が軽減される「激甚災害指定」の遅さである。

「前震発生から11日後の25日、ようやく閣議決定されました」

 とは、政治部デスク。すでに蒲島知事は15日朝のテレビ会議で早期指定を求めていたのだが、なかなか実現せず、

「18日のTPP審議の場でも、河野大臣は遅れている理由を『復旧に要する費用が地方税収入の割合を超えた場合に指定される』とし、金額の算定に時間がかかっているとの旨、答えていました」(同)

 が、阪神淡路大震災の時は発生から7日後、東日本大震災では翌日に、時の政府は指定を決めていた。迅速さの点において、それらを下回ってしまったのだ。

 先の緒方議員は、

「『お金の面は国がきちんと面倒を見てくれる』という地元の方の安心につながるため、早いに越したことはありません。安倍総理は現地入りした23日に『週明けの閣議で指定する』と明言しましたが、やはり補選へのアピールだったのか、と勘繰ってしまいます。第一、地方自治体レベルでは負担できない被害が出ているのは誰の目にも明らかなのですから」

 と、4月24日に行われた北海道5区補選を意識した行動だったのではないかと言う。政治アナリストの伊藤惇夫氏も、こう指摘するのだ。

「河野大臣が地方税収入との関係を説明していましたが、映像ニュースなどで被害状況はつぶさにわかっているわけで、そんなものは後講釈です。指定を早く行えばその分、権限でホテルの部屋を確保し、車中泊から抜け出せるとか、方向性を打ち出すことができ、被災者に希望を与えられる。それが安倍さんは全く出せていません。一連の震災対応からは、やはり政権の緩み、弛(たる)みがちらつくのです」

■浮足立つ閣僚たち

 官邸担当記者が言う。

「そもそも安倍総理はこの間、ずっと補選に心を砕いてきており、前震が襲ってもなお、応援で北海道入りしようとしていたほど。そんな浮足立ったムードが伝播したのか、閣僚にも“凡ミス”が目立ちました。例えば、森山裕農水相は18日、食料の供給について『19日まで3日分の90万食は確保できる』とした上で、20日から22日までの3日間で計180万食を追加供給すると説明したのですが、これが事務方の伝達ミスで、翌日さっそく、閣議後の会見で90万食に訂正、陳謝する破目になりました」

 で、よほど腹に据えかねたのか、

〈農水省というのはまるで率先して仕事をしないなあ〉

 などと周囲にボヤいていたという。また河野大臣も19日の会見で、

〈本日中に58万食が自治体に届く〉

 としたものの、正しくは90万食。こちらは少なく見積もってしまったのである。

 そしてあろうことか、より慎重に取り扱わねばならない数字を間違えてしまったのは、中谷元・防衛相だった。

「本震が起きた直後の週末でした。本来、警察を管轄する河野国家公安委員長と政府の広報全般を担う菅官房長官が発表すべき死亡者数を、なぜか中谷さんが口にしたのです。それも、現地の本部に詰めている自衛隊の情報と、NHKニュースで知った数を混ぜたでたらめなもので、各社が統合幕僚監部に確認に走ったため、制服組は発言の裏付けでてんてこ舞い。この非常時に、自ら余計な仕事を増やしてしまったのです」(同)

 いずれも些事とはいえ、チリも積もれば山となる。田中氏があらためて、

「災害時の対応策はまず『総論』から始めるべきです。激甚災害指定として扱うか否か、仮設住宅はいつまでに何戸作るのか、食料は何食分を何日間で配布するのか、といったことです。これがないまま、各大臣や担当者がそれぞれ『各論』を喋ってしまっているので、行き違いや国と被災者の要望とにミスマッチが生じてしまうのです」

 天災もまた、為政者に仮借なき審判を下すのである。

「特集 『安倍内閣』熊本支援の失態失策大失敗」より

週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

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