三菱自動車の不正について語る“三菱グループの天皇” 「燃費不正は社内的には善意」

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 三菱重工相談役であり、“三菱グループの天皇”とも呼ばれた相川賢太郎氏(88)が、三菱自動車工業の「燃費データ不正問題」について口を開いた。三菱重工の社長を1989年から3期6年、会長を2期4年務め、今も三菱グループ全体に睨みを利かせる氏は、三菱自動車の相川哲郎社長(62)の実父でもあり、哲郎氏は“プリンス”“皇太子”と称されたこともある。

三菱自動車本社

 不正問題について尋ねると、

 「三菱自動車が潰れる? そんなことはないですよ。潰れないですし、それは絶対に潰しちゃイカンですよ」

「あれはコマーシャルだから。効くのか効かないのか分からないけれど、多少効けばいいというような気持ちが薬屋にあるのと同じ」

 と語ったほか、

「買うほうもね、あんなもの(公表燃費)を頼りに買ってるんじゃないわけ。商売する人は別だけれど、自動車に乗る人はそんなにガソリンは気にしていない」

 などの発言、否、放言が飛び出した賢太郎氏へのインタビュー。三菱自動車の社内で息子の哲郎氏が「プリンス」「皇太子」などと呼ばれる特別な存在だったことについては何と言うか。

■自動車開発の夢

「そういう親子関係で、ということは三菱グループは絶対にしないんだよね。僕の息子もね、僕と同じ東大の機械科を出ているけれど、三菱重工には入らなかったわけ。親子関係だから。けれども自動車が好きなもんだから三菱自動車に入ったわけで。三菱が好きだから三菱自動車に入ったのではない。単純に自動車が好きだから入った。僕が言ったからでも、僕が斡旋したわけでもないからね」

 ただし、賢太郎氏自身も超の付く自動車好きで、

「それは親子2代だね。僕はもう13台目の車に乗っていますから。今は三菱のプラウディアという車と三菱製の軍用ジープに乗っています。僕は長崎出身だからね。昭和20年9月、進駐してきた米軍が、長崎の諏訪神社という山の上にある神社の階段を、ジープでガーッと登って行くわけだ。当時、旧制高校1年生だったけど、それを見てたまげたわけ。で、あのジープに乗りたい、と思い続けていた。自動車を買うのが人生の目的だったくらいだけど、僕が大学を出た頃はまだ日本では自動車工業は発達していなかった。それで、三菱重工に入って蒸気タービンを作ることになった」

 泣く泣く自動車工業を諦め、ひょんなことから入社した三菱重工で「天皇」と呼ばれるまでになった賢太郎氏。父親と同じ大学の同じ学部を卒業し、三菱自動車に入社した息子には、「自動車開発」という道で父親が果たせなかった夢を実現してほしい、との思いはなかっただろうか。

■延期になった卒寿祝い

 今回の問題発覚後、息子と不祥事についての話はしていない、と賢太郎氏は語る。ただし、連絡はあったといい、

「実はこの5月2日に僕の卒寿のお祝いと、建設会社で働いている哲郎の弟の還暦祝いをやろうと言っていたんです。ところが今回の問題が起こってね。哲郎が、お祝いなんてやる状況ではないから延期と言うてね。哲郎の弟のほうはこの間まで九州の支店長をしてたんですよ。今は東京に戻っていますが、先日の地震で九州に駆け付けた。兄弟2人ともお祝いどころじゃないようだから、延期、と」

 かような経緯で直接会う日は遠のいてしまったが、賢太郎氏は哲郎氏に次のことを伝えたいという。

「今回、試験をしてデータを出した人達はコマーシャルのつもりでやってるから、罪の意識はないんだぞ、と。だからむやみに咎めちゃイカンぞ、ということを言いたい。僕が社長だったらね、“ああ、これは愛社精神の指導が間違ったんだな”と。社内的には善意なんだろう、と。その人達もね、燃費を良くすれば1台でも多く売れるんじゃないかと考えたんでしょう。それで自分の給料が上がるわけでも、地位が上がるわけでも、“あの人が良いエンジンを作った”と褒められるわけでもない。彼らを咎めちゃいけない。三菱自動車のことを一生懸命考えて、過ちを犯したんだから」

 が、代償は極めて大きなものになりそうだ。野村証券の試算によれば、補償額は計425億円から1040億円に上る見通し。また、販売した車を全て買い取ると、総額3000億円から6000億円が必要になる。

「三菱自動車の従業員が3万人、下請けも入れると10万人以上の人がいる。会社を潰すと、それだけの人が路頭に迷います。彼らだって同じ日本の国民です。武士の情け、そういう気持ちも大事ですよ。それに、三菱重工は三菱自動車の株を持っていますからね。株主としては支援はしなきゃイカン。それは当然のことでしょう」

「天皇」の言葉は重い。またしても三菱自動車に、救いの手が差し伸べられることになるのだろうか。

「特集 三菱自動車『相川哲郎』社長の実父『三菱グループの天皇』かく語りき『自動車は潰さない! 燃費なんて誰も気にしていない!』」より

週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

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