ゆとり教育、法科大学院、文理融合系学部……迷走続きの文科省が打ち出すグローバル教育

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 政府が打ち出した“大学生をグローバル人材に育てる”大方針の具体策として、文科省は2014年に37校のスーパーグローバル大学(SGU)を選定。世界の大学ランキングトップ100入りをその目的としているが、早くも翌年には既にランク入りしていた東大、京大の順位が大きく下がり、他校が新たにトップ100入りすることもない。日本の大学は国際的な評価を低下させてしまったということになる。

世界ランキングの順位を下げた東大

 政府は、グローバル人材を定義する要素のひとつとして、主体性やチャレンジ精神、柔軟性などのいわば「人間力」を挙げている。これは、人としての教養、素養と置き換えることが可能であろう。だが昨年6月、文科省は突如、「人文社会科学系学部の統廃合」を進めよと、国立大学の教育現場に通知した。とどのつまり理系と違い、哲学や文学といった、ビジネスに直結しない点では「無駄」な文系学部のスリム化を図れというわけだが、人間力の涵養には文系的な教養、素養が不可欠であるのは論を俟(ま)つまい。

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『文系学部解体』の著者で、横浜国立大学教育人間科学部の室井尚教授が嘆く。

「例えば古代ペルシャ美術の研究はビジネスの役に立たないと言われれば、そうでしょう。しかし、役に立つ、立たないといった議論自体が不毛だと思う。そういった意味で文系学部で役に立つのは経営学などに限られてきますが、それに特化するということは専門学校化とほとんど同義です。既に専門学校は無数に存在しているのに、わざわざ大学を専門学校にして、どんな意味があるのでしょうか。大学に入るまで教科書以外の本を読んだことがない学生が、今は珍しくありません。ドストエフスキーを読んだことのある学生にいたっては絶滅危惧種です」

文科省は2014年に37校のスーパーグローバル大学(SGU)を選定。世界の大学ランキングトップ100入りをその目的としているが……


『罪と罰』の人間に対する根源的な問いに接したこともなく「グローバル人材」を気取られても、それは人間力を欠いた単なる「ビジネスマシーン」に過ぎないのではなかろうか。事実、文科省の高等教育担当者は、

「一見、英語をビジネスに使っていないようでも、英語を仕事に活かす機会は増えているはずです」

 と答え、大学の「ビジネススクール化」を隠そうともせず、その姿勢からは大学が知の拠点であるとの「畏(おそ)れ」が窺えないのだった。振り返ってみると、

「04年度から始まった法科大学院は、今では定員割れが常態化しており、誰の目から見ても失敗は明らか。文理融合系学部の創設も上手くいっていない」(室井教授)

 と、文科省の教育行政は、ゆとり教育をはじめ奏功したものを思い起こすのが難しいほど、迷走してきた感が否めないのである。

「財務省などと比較すると霞が関の中で力の弱い文科省は、すぐに『世間受けする成果』を出そうと、場当たり的な教育政策を繰り返してしまうのだと思います」(明治大学商学部の清水真木教授)

「特集 『グローバル教育』を掲げて 『東大』世界ランキングを下げた『文科省』の大矛盾」より

週刊新潮 2016年4月21日号掲載

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