伊勢原で遺体発見 「死刑囚の告白」を隠蔽しようとしていた警視庁

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動かなかった警察

 もっとも当初、警察はこの捜査に消極的だった。それどころか、矢野の告白を隠蔽しようとしていた節すらあるというのが実態だ。

〈この処、毎晩のようにリュー一世(斎藤衛の反社世界での稼業名)の夢で苦しんでおります。(中略)一日も早くリュー一世を穴から出してやって頂きたくお願いを申し上げます〉

 この斎藤殺しの“告白の書”を、矢野が警視庁目白警察署に送ったのは一昨年12月のことだった。彼が手紙を送付していたことは先に述べた通りだが、その時期は最近ではなく、1年半近くも前のことだったのである。これを受け、目白署の捜査員がすぐさま東京拘置所で矢野の事情聴取を行った。しかしその後、警察の動きはぱったり止まった。

 反応がないことに痺れを切らしたのか、矢野は年が明けた昨年5~6月、今度は津川さん殺しを告白する手紙を、関係先を管轄する渋谷警察署に宛てた。

 これに渋谷署はどう対応したか。彼らは矢野への確認にすら動かず、全く無視したのである。つまり、警視庁は一昨年末以降、1年以上にわたり、事案を放置していたわけだ。これでは矢野の告白を闇に葬ろうとしていたと疑われても仕方あるまい。住吉会関係者が苦笑する。

「矢野はすでに死刑が確定していて、放っておいても処刑される。そんな男の余罪を立件しても、何の得点にもならない。しかも矢野の告白の動機が、新たな事件の立件による、死刑執行の先延ばしにあることは明白です。こんな奴のために、苦労して穴掘りの泥仕事などしたくないというのが、本音だったのでしょう」

 それは矢野も織り込み済みだった。警察が告白を握り潰すことを恐れ、彼は“保険”をかけていた。目白署や渋谷署に手紙を送付する際、それと同時に週刊新潮編集部にも同じ“告白の書”を送っていたのである。

 この間、本誌は結城氏に接触し、事件の全容を明かすよう、説得を重ねた。取材に1年余を費やした結果、ついに彼は重い口を開き、証言してくれたのだ。

「津川さんの遺体は、大山の林道脇の雑木林に穴を掘って埋めました。龍一成(斎藤衛)の死体は、埼玉の山中に遺棄した」

 今年2月の本誌の第一報を受け、警視庁は捜査放棄を糊塗すべく、慌てて結城氏への任意聴取に取りかかった。そして今回の遺体発見に至ったというのが、事の真相なのである。

週刊新潮 2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号掲載

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