与党惨敗を引き起こした朴槿恵大統領 結局切り札は“反日”のみ
アヒルは空を飛べないから、足が不自由になれば死に体同然。「レームダック」が死に体の政治家を意味するゆえんだが、待てよ。足が動かなくてもジタバタと暴れて、周囲をかき乱すことはできるじゃないか。さて、朴槿恵大統領(64)も暴れるのか……。
「隣の朴槿恵オバサン、このごろ少し変よ、どうしたのかな」
元時事通信ソウル特派員で『悪韓論』(新潮新書)の著者の室谷克実氏は、最近、そう実感していたという。
「なにしろ、昨年末、慰安婦問題について日韓の間で外交決着して以来、反日的なことを一切言わなくなったんです」
その意味を、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏に説いてもらうと、
「自分が決めたことは守る、というのが彼女の看板なので、日本との約束は何があっても履行すると覚悟しているはず。実際、合意のあと、対外的にも対内的にも、一切日本を批判していません。彼女は大統領としての3年間の業績に、慰安婦合意を挙げてきた。歴代政権ができなかったことを成し遂げたという点に、大きな意味があるのです」
ところが、「このごろ少し変」だった朴大統領を襲ったのが、今月13日に投開票された総選挙の思いもよらぬ結果だった。「コリア・レポート」編集長の辺真一氏が解説する。
「定数300の総選挙で、過半数獲得を目標にした与党セヌリ党は、122議席にとどまった。一方、野党は合計で167議席で、うち最大野党の共に民主党が123議席を獲得し、“ねじれ国会”の状態になりました。こうなると、日本にとって一番懸念されるのは、慰安婦問題ですね」
惨敗の要因を、元朝日新聞ソウル特派員の前川惠司氏に解いてもらうと、
「パフォーマンスで点数を稼いできた朴槿恵さんですが、今回はパフォーマンス不足で敗退した。日本の産業革命遺産の世界遺産登録の際、現場が反日の朴大統領におべっかを使って反対姿勢を取った結果、慰安婦合意が予定よりだいぶ遅れた。で、反対派が勢いづいたところで総選挙が始まり、パフォーマンスに費やす時間がなかったんですね」
■現実的な切り札は反日
ともかく、ガンコな朴大統領が、慰安婦問題について日本との約束を守りたくても、こうしてレームダック化が進めば、初志貫徹もままならないわけだ。
再び辺氏が言う。
「慰安婦合意に対して、野党は当然、反対の立場です。だから、今後、交渉の際に日本側と裏取引があったのではないか、在ソウル日本大使館前にある慰安婦像の移転は、強制的に約束させられたのではないか、などと国会で追及するでしょう。そうなると、朴大統領は今後の国会で、防戦一方になりますね」
それだけではない。
「野党は、北朝鮮に対する規制緩和を求めたり、2014年のセウォル号沈没事故発生時、朴大統領の所在が7時間ほど把握できなかった問題の真相究明を求めたりするでしょう。カンフル剤になるのは、一つは経済活性化ですが、韓国経済は今、先行きが不透明です。もう一つは対北朝鮮政策ですが、金正恩を呼び捨てにし、“核放棄しないと自滅する”と言いながら、南北首脳会談といったカードは切れない。結局、現実的な切り札は反日です」(同)
先の室谷氏も、
「慰安婦像の撤去も、対馬から盗難された仏像の返還も遠のくのではないか」
と言うが、レームダックの“見本”の前で、日本が不利益をこうむるのを、どうやって防げばいいのか。
「大統領選まであと1年10カ月、朴槿恵さんの任期のうちは、日本が彼女を助けることです。そうでないと、さらに日本に厳しい野党が政権に就いてしまうのですから」(黒田氏)
日本もまた、韓国に対して“足が不自由な状態”を強いられるようなのだ。
「ワイド特集 浮世にも活断層」より