九州が南北に割れる活断層のメカニズム 阿蘇山大噴火の可能性は?

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 何しろ16日の会見では「経験則から外れている」「(本震の)予測は困難」と、他ならぬ気象庁がすっかりお手上げの態だった。ことほどさように今回の激震は異例ずくめなわけだが、その“メカニズム”を繙(ひもと)いたところ、のっぴきならない事態が生じていることが明らかになったのである。

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日本の主要な活断層

 あらためて振り返ると、14日夜に発生したM6・5の“前震”は、震度7の益城町(ましきまち)から八代海に延びる「日奈久(ひなぐ)断層帯」で引き起こされ、続いて16日未明にM7・3を観測した“本震”は、阿蘇山西麓から宇土(うと)半島にまたがる「布田川(ふたがわ)断層帯」で発生したものである。

 その後、大分県を走る「別府─万年山(はねやま)断層帯」でも、地震活動は活発になっていった。

「断層」とは、地層に力が加わってずれが生じた箇所であり、今後活動するとみられる「活断層」は国内に2000余り存在する。中でも、特に活発なものは政府の地震調査委員会が「主要活断層」と位置付けており、現在はおよそ100を数える。

「活断層は、数十万年前以降に繰り返し活動してきたものです」

 とは、東京大学地震研究所の古村孝志教授。

「それでも、注意すべきなのは地表に現れている活断層の付近だけではありません。地下に隠れているものがM6クラスの地震を引き起こすおそれも十分にある。つまり、日本中のあらゆる場所で可能性があるということを意味するのです」

 その上で、京都大学防災研究所付属地震予知研究センターの西村卓也准教授が解説するには、

「そもそも通常は、地震によって断層の“ひずみ”が解消されて活動が収まっていくわけですが、今回はM6・5の後、さらに大きな地震が起きた。国内でこうした例は過去百数十年の間にほとんどありません。加えて、阿蘇や大分など震源域が北東方向に飛び火しました。離れた場所で活発化するというのも、従来は見られなかったケースです」

 かつて地震予知連絡会の会長を務めた大竹政和・東北大名誉教授も、

「GPSの観測データや余震分布データから考えるに、布田川断層が30キロ以上にわたってずれ動いたことは間違いありません」

 そう前置きしつつ、

「一連の地震について現象的に言えば、私どもが歴史上見たことのない、史上初の事態が進行していると言っても過言ではありません」

 というのだ。

「いま問題になっている断層の位置は、大きな括り方をすれば『別府─島原地溝帯』と呼ばれるエリアに含まれます。東北東から西南西に伸びるこの帯を境目にして、地質学的に現在、九州は北と南に割れつつあります。年間でミリ単位程度しか動かないので目立ちませんが、ざっと100万年後、九州は北島と南島に分断されることになる。そうした大きな動きの中で、何が起こるか予測がつかないのが現状なのです」(同)

 前回、熊本で大地震が起きたのは127年前の1889年。規模はM6・3であった。

「この時もM6級の地震が10年ほど断続的に続きました。これも『地溝帯』という厄介なエリアの特徴です。こうした過去に鑑みれば、今回もまた“長期戦”になるのだろうと思われます。関連地震の可能性としては、阿蘇山から別府にかけての北東側が案じられますが、それよりはるかに不気味なのが、今回の日奈久断層が一気に崩れる事態。そうなれば、M7~7・5規模の揺れが襲いかかって来るでしょう」(同)

 その地溝帯には、熊本のシンボルともいえる阿蘇山も位置している。

 地震前から火山活動が活発化し、3月4日に続いて今月16日朝にも小規模な噴火がみられたものの、気象庁は「地震とは直接関連がない」とした。しかし翌17日には、布田川断層帯が実は阿蘇山のカルデラまで達していた、と判明したのである。

■マグマはどうなる

 火山噴火予知連絡会副会長の石原和弘・京都大学名誉教授は、

「阿蘇山は一昨年秋から20年ぶりに活動を始めており、今後も噴火が続くでしょう。もっとも、火山の周囲が断層で囲まれているとはいえ、その影響を直接受けて噴火すると考えるのは現実的ではありません」

 としながら、

「マグマは90~100キロほどの地下で生成されて上がってくるわけですが、たとえ断層帯が至近距離にあっても、実際には直径10キロの範囲内で地震は発生していない。火山の地下は高温で、岩石が他の場所より粘り気を帯びるため、断層の“ひずみ”の影響を受けにくいとも言えるのです。もちろん、仮に数万年前と同レベルの噴火が起きれば“九州壊滅”となるでしょうが、現在ではとても起こり得ないでしょう」

 が、先の大竹名誉教授は、こう懸念するのだ。

「本震によって布田川断層帯が破壊され、その東側の縁が阿蘇山に迫っています。至近距離でずれ動いたのですから、山に何の影響もないとは考えられず、また結末がどうなるのか誰にもわからない。本格的な噴火も含め、大変気がかりなところです」

 そうした点については、元京大総長の尾池和夫・京都造形芸術大学学長(地震学)も、

「九州の地下には大量のマグマがあります。阿蘇山も長いこと大きな噴火がありません。『マグマだまり』は10キロほどの地中、地震を起こした断層と同じくらいの位置にあり、そこで力の働き方が変わったわけですから、圧力のかかったマグマが噴き出すという事態も十分あり得ます」

 むろん阿蘇山に限った話ではなく、

「今回は活断層が数十キロにもわたってずれたことになる。こんなに大きな刺激があれば、当然マグマにも影響します。霧島や桜島においても、噴火が誘発される可能性は大いにあるのです」

 地面ともども、空から片時も目が離せないのだ。

「ワイド特集 『熊本地震』瓦礫に咲く花」より

週刊新潮 2016年4月28日号掲載

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