「新幹線で地域が賑わう? それは昭和の発想ですよ」北陸新幹線でわかった賑わう地方、変わらない地方
3月末の北海道新幹線がそうだったように、新幹線が開業すれば、マスコミは「経済効果○○円!」「つながる日本」といった形で取り上げる。
しかし、新幹線の開業は本当に“おめでたいこと”なのだろうか?
そんなテーマのルポ『新幹線、だからなんですか?』が、現在発売中の「新潮45」5月号に掲載されている。筆者は『ご先祖様はどちら様』で小林秀雄賞を受賞したノンフィクション作家・高橋秀実氏。昨年の開業から1年あまりが経った北陸新幹線に乗って、富山と金沢を訪れている。
■開業効果の見られない富山
最速の北陸新幹線「かがやき」を利用すれば、東京から富山まではおよそ2時間、終点の金沢まではおよそ2時間半で到着する。開業によって、当然、周辺住民の生活圏は広がり、地域振興の恩恵がもたらされた……と思いきや。富山市の一般財団法人「北陸経済研究所」の主任研究員・藤沢和弘さんが高橋氏の取材に答えたところでは、「新幹線で地域がにぎわう? それは昭和の発想ですよ」。以下、〈〉は文中からの引用である。
富山駅前。開業効果の見られない?
〈――観光などは……。
私が言いかけると、彼が遮る。
「ほとんど期待できません。そもそも人口が減っているし、高齢化も進んでいます。観光も斜陽産業なんです(略)家族旅行っていったって、若者が結婚しないんで、家族ができないじゃないですか」〉
同研究所の試算では、新幹線の開業効果は富山県全体のGRP(域内総生産)の1%増にも遠く及ばないという。実際、今年2月に高橋氏が来訪した時の富山駅前は閑散としており、駅ナカ施設「きときと市場とやマルシェ」も、富山の名産品の扱いはほとんどなく、売り場面積が最も広いのは「マツモトキヨシ」だった。
■「有り難迷惑」
では、町の人の声はどうか。“新幹線が開業してよかったですか?”と高橋氏が尋ねても、反応は鈍い。
〈「東京に日帰りできます」
と答える人はいるのだが、日帰りして何がしたいのかと問うと、そこで答えに詰まるのである。ネットのない時代は東京に行かなければ何も手に入らないと思われていたが、今では通販もあるし、テレビも多チャンネル(略)日帰りできても日帰りする用事が特にないらしい〉
反対に、富山に人が来るようになったのでは?と高橋氏が尋ねた、駅近くの飲食店主は、今までの出張客は一杯飲んで東京の自宅に直帰というパターンだったが、2時間で帰れてしまうため、会社に戻る客が多く、ここで飲めなくなった、と語った。富山の地域振興という点では、新幹線の開業はまるで逆効果なのだ。
この後も、高橋氏は富山の人々の声を拾ってゆくが、いずれもネガティヴな反応ばかりで、
〈実際に地元の人々と話してみるとむしろ「来なくてもいい」と言わんばかりである〉
〈富山では新幹線開業も総じて有り難迷惑という印象なのである〉
と書くに至っている。
■楽しげな金沢の人々
対して、金沢である。金沢駅に降り立った高橋氏が目にしたのは、駅前の巨大な「鼓門」とガラス天井の「もてなしドーム」、そして新幹線開業後に改装された駅ビルなど。富山とはうってかわった“華やかさ”に圧倒されたという。
新幹線開業以来、500万人の観光客を迎える金沢。地元の新幹線に対する感情も、富山より好意的なようだ。富山の人々は答えに窮していた“東京に日帰りで行けるようになって何をするのか?”という問いにも、
〈ある女性は「東京が近くなったので婚活の範囲が広がりました」と微笑んだり、「おかげで嵐のコンサートも日帰りで行けます!」と楽しげ。「新幹線は揺れないので酔いません。おかげで東京にも行けます」とうれしそうに言われると、あらためて新幹線の揺れを確認したくなるのだ〉
同記事で高橋氏はこうした差の原因を、富山市長森雅志氏や市民、タウン誌編集長、タクシー運転手らに取材し丁寧な分析を行っている。高橋氏の分析は新幹線に浮かれる時代の終わりを浮き彫りにしている。
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