福山「月9」も「野島ドラマ」もコケた 「フジテレビの凋落」から何を学ぶか

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■鳴り物入りの新ドラマが……

 4月の改編期、フジテレビのドラマの低調ぶりが話題になっている。福山雅治主演の「ラヴソング」(月曜夜9時~)や、野島伸司脚本で朝ドラの人気女優シャーロット・ケイト・フォックスや人気子役が主演の「OUR HOUSE」(日曜夜9時~)といった大型ドラマが軒並みスタート時に予想を下回る低視聴率を記録してしまったからだ。

 なぜかつての“王者”に復活の兆しが見られないのか。元フジテレビ社員の吉野嘉高氏は「今のフジテレビは多様性を失い、70年代の雰囲気に逆戻りしてしまった」と指摘している。その吉野氏が同局の苦境を分析した著書『フジテレビはなぜ凋落したのか』は3月発売以降民放キー局に近い書店で、新書の売り上げ上位にランクインしており注目が集まっている。

ドラマ「ラヴソング」公式サイトより

 当事者であるフジテレビ局員はさておき、他局の局員は「ざまあみろ」という気分で溜飲を下げながら読んでいるのかと思えば、どうやらそうではないらしい。

「テレビ局員に限らず、出版社等、コンテンツビジネスに関わる人たちから、『他人事とは思えない』といった感想が多く寄せられています」(担当編集者)

 同書で指摘しているフジテレビの問題点は、どの企業でも思い当たるフシがあるということのようなのだ。たとえば、どういうことか。同書から引用してみよう(「第5章 時代を逆走して転落」より引用)

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■70年代の雰囲気に逆戻り

 (フジテレビの現役)中間管理職のある社員は、トップの責任を指摘すると同時に、最近の若手社員にも苦言を呈していた。要するに、「上も悪いが、下も悪い」と言いたいのだ。

 今の体制をつくった経営陣を批判する一方で、「若手は、優等生的なやつが多いから、はみ出したことをするのを嫌がる」「世代交代を進めようとして、ベテランを他の部署に異動させ、若手に仕事を任せたが、制作能力が低く何もできなかった」など、ネガティブな評価が口をついて出る。

 きっと今の20代から30代は「いい奴」で「優等生タイプ」が多いのだろう。かつての黄金期を支えた“テレビバカ”ではないのだ。

「いい奴」だから、上司に言われたことは、言われた通りにきちんとこなすし、危機管理にも十分に配慮する。各方面と調整し、同意を得た上で仕事を実行する。

「優等生タイプ」ゆえに、仕事で外してしまう自分が許せない。ついつい守りの姿勢を重視して、安全な方策に頼るようになる。

 しかしそれでは、同じような番組が作られ続けるだけ。

 80年代から90年代前半のコンテンツに特徴的だった「多様性」も失われてしまう。フジテレビは尖った個性に寛容だったはずなのに……。

■管理職の責任は

 この点については、亀山社長も「今の若い社員は、行儀や礼儀は非常に正しいのですが、逆にそれがテレビをつまらなくしているかもしれないのかな」(「日経エンタテインメント」2013年11月号)と嘆いている。

 そうかもしれないが、だからといって上の社員たちが若手を責めることはできないだろう。「優等生タイプ」を採用し、「いい奴」に育てたのは、彼らに他ならないのだから。

「行儀や礼儀」を重視する若手は、上司の考えていることからズレたことはしない。長幼の序を重視し、フジテレビ黄金時代を築いた先輩もきちんと立ててあげる。人間関係の摩擦を避け、KY的発言をしないように上司の顔色をうかがいながら、その腹の底にあるものを忖度していく。(略)

 このように、部下が上司の顔色を窺いながら番組を作るような流れが、フジテレビの中でできてしまった。仲間意識を大切にする企業風土も悪い方向に働き、現場判断ではなく、組織としてコンセンサスを得た上で放送をした方が良いということになる。

 しかし、組織としての合意ができるには時間がかかる。フジテレビは70年代に逆戻りしたように、企画案へのレスポンスに時間がかかるようになってしまった。

 最近は、制作会社が新機軸となる番組企画を、視聴率の地盤沈下が進むフジテレビではなく、日本テレビやテレビ朝日に持ち込むようになったという。

 その方が採用か不採用かの判断が早く、高視聴率を獲得できる可能性も高いからだ。

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 著者の吉野氏は、古巣の苦境について「社風の一新」が求められている、と述べている。このあたりも、「ウチもそうだ……」と思うビジネスパーソンも多いのではないか。

デイリー新潮編集部

2016年4月22日掲載

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