未回収170億円の不適切取引!“発覚”の翌月に事件は起きていた 〈報告書が明らかにした「社長射殺事件」のキーマン(下)〉
「王将社長射殺事件」から2年が経ち、「餃子の王将」を展開する「王将フードサービス」の2代目社長・望月邦彦氏(79)が、事件後初のインタビューに応じた。取材の中で望月氏が明らかにしたのは、創業者・加藤朝雄社長(故人)の代から続く、村山祐一氏(仮名)との関係だった。朝雄社長の没後、1年間の望月社長就任期間を挟み、長男の加藤潔氏が代表取締役社長に、次男の欣吾氏が経理部長兼代表取締役専務に就いたが、以来、「欣吾氏と村山氏との間で不適切な取引が始まった」(王将関係者)という。3月29日に公開された第三者委員会の調査報告書は、これら取引の実態を明らかにしている。
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報告書は、両者の間で繰り返された計14件に上る巨額の取引を挙げているが、その一端は以下の通りだ。
・00年8月、村山氏の関連企業から、福岡市中央区の9階建てオフィスビルを12億3700万円で購入。
・00年9月から11月にかけ、村山氏の関連企業が運営するゴルフ場の隣接地を27億9100万円で購入。
・01年4月、村山氏の関連企業が所有する長崎県雲仙の旅館を20億円で購入。
これらの取引には、取締役会の承認を得ないばかりか、契約書すら存在しないものもあるという。
バブル崩壊後にもかかわらず、欣吾氏が〈独断専行〉で巨額の不動産を買い取り続けたのは、お人好しな性格ゆえか、相当な弱みを握られていたのか――。
ともあれ、村山氏のグループ企業と王将との取引総額は最終的に約260億円に達し、そのうち、実に170億円余りが回収されずに焦げ付いているというのだ。
別の大企業であれば、身を挺して諫める番頭がいたかもしれない。しかし、報告書に記載された王将の他の取締役の言葉から窺えるのは、創業家に対する過剰なまでの“配慮”だけだ。曰く、
〈偉大な創業者の次男で大株主でもある欣吾氏が行うことに異議を述べることなどできなかった〉
さらに、本業での失敗も経営難に拍車を掛けた。
「潔さんは社長に就任すると、王将の店舗を静かで落ち着いた雰囲気にしたいと考え、店内での調理を客席に見せないクローズドキッチンを導入したのです。ただ、そのせいで店から活気が消え、売り上げも低迷してしまった」(先の関係者)
その結果、〈01年3月期には王将の有利子負債が452億円に膨れあがり〉、同社は一時、倒産の危機に直面したのである。
■もうひとつの“報告書”
京都にある餃子の王将本社
そんな非常事態に王将の舵取りを託されたのが、朝雄氏の義弟であり、潔氏・欣吾氏の叔父にあたる大東隆行氏(享年72)だった。
00年に4代目社長に就任するや、数年後には業績を回復させ、カリスマ経営者としてその名を轟かせる。
同時に、大東氏は王将と村山氏との関係を切るため、直接交渉へと乗り出すことを決意する。
そして、大東氏が中心となって作成したのが13年11月にまとめられた、もうひとつの“報告書”だった。
実は、これまで引用してきた調査報告書も、こちらの内容をベースにしている。つまり、2年以上前の時点で、不適切な取引の詳細は明らかになっていたのだ。だが、この報告書は当時の取締役会に提示されたものの“社外秘”扱いとなり、日の目を見なかった。
もうお気付きだろう。
大東氏が非業の死を遂げたのは、最初の報告書の完成から、わずか1カ月後のことである。
発生直後から事件を追ってきたジャーナリストの一ノ宮美成氏が言う。
「欣吾氏と村山氏が密接な関係にあったことは、門外不出となった報告書で明らかにされていました。その報告書が出来上がった直後に大東氏が襲われたのですから、欣吾氏が事件解明のキーマンであることは間違いないと思います」
事件当夜、記者会見に臨んだ王将の役員は、
「憤怒の気持ち、耐え難いものがあります」
と声を詰まらせたが、その後にこう続けている。
「会社や社長個人への脅迫や嫌がらせはなかった。犯人が誰なのか全く思い当たるふしがない」
事件直前に巨額の取引トラブルを知らされながら、“思い当たるふしがない”とは、いかにも不自然だ。これも創業家への気遣いだったのか。
また、望月氏によれば、
「大東さんの事件後、私を訪ねて来た警察から、王将と村山さんとの関係について尋ねられたのは事実です。ただ、創業者から私の時代までは、何も問題はなかったと申し上げました」
餃子の王将
■関係者は何と答えるか
今回の報告書作成に当たって、欣吾氏は第三者委員会の聞き取りに応じていない。王将は、創業家と村山氏との関係については、
「コメントは差し控えさせて頂きます」
としながら、欣吾氏への刑事告訴の可能性を質すと、
「今後検討する予定です」
と回答した。
欣吾氏、村山氏にも、取材を試みたが、回答は得られなかった。一方、大東氏の姉で、欣吾氏の母親である梅子氏を訪ねると、
「そのことで、わたしゃ、神経すり減らして病気になったんだ……」
と言うのみ。“中興の祖”の無念を晴らすには、創業家の闇を暴くことが先決だ。
「特集 元社長に初インタビュー120分『王将報告書』が明かした未解決『射殺事件』キーマンは創業家の次男」より
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