オバマ大統領の広島訪問は実現するのか 広島市民は「謝罪」を求めない

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■ケリー国務長官の献花

 G7の外相、とりわけアメリカのジョン・ケリー国務長官が広島を訪問し、原爆資料館を見学して、慰霊碑に献花までしたことはニュースでも大々的に取り扱われている。献花の際、ケリー長官が岸田外相に原爆ドームを指さしながら「あそこまで行けないのか」と話しかけ、「歩いて2,3分です」と答えると、「じゃあ、行こう」となり、急遽、外相たちがそろってドームへ向かって歩き始めた。事前の予定にはなかったため、警備陣も、スタッフも大慌てという一幕だった。資料館での説明も当初は30分の予定だったが、外相たちから相次いで質問が出て、予定を大きくオーバーし、50分を費やした。ケリー長官は記者会見で「1945年8月6日、何が起きたのかの実相が私にとって生涯忘れることができない記憶となった」と心情を吐露するとともに、「ワシントンへ帰り、大統領と会って、私がここで学んだことを話し、いずれかのタイミングでこの地を訪問することがいかに大切かと伝える」とまで語った。もっとも、アメリカではこの問題はデリケートなものであるため、ケリー国務長官の発言は、慎重なものだった。

 原爆投下を「謝罪」した、と受け取られると、アメリカ国内においては強い反発を招きかねず、それは現政権はもちろんのこと、大統領選における民主党候補への逆風となりうるからだ。

 しかし、実のところ、広島側は「謝罪」を求めてはいない。

 2015年9月、広島テレビ社長の三山秀昭氏は、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)高官のもとを訪れた。面談の目的は、オバマ大統領の広島訪問を熱望する1400人の広島市民の手紙を手渡し、その熱意を直接伝えることだった。

広島テレビが県民1400人から集め、ホワイトハウスに届けた「オバマ大統領への手紙」

 どのようなやり取りがあったのか。以下、三山氏の手記(「オバマ大統領、ヒロシマはあなたを待っています」、『新潮45』2015年12月号)をもとに見てみよう。

 三山氏は高官に対して、こう説明している。

「重要な点は原爆投下の謝罪のために広島訪問を求めているのではないということだ。プラハで『核なき世界』を世界に発信した大統領が、厳しさを増す国際情勢の今だからこそ、核軍縮のメッセージを世界に発信して欲しいのだ」

 先方は広島訪問経験もあり、「謝罪のための訪問要請ではない」という広島の空気を知っていたという。

「要請は理解した。関係部署で手紙を十分に研究する」

 さらに高官は、こうも語った。

「選挙など国内政治は関係ない。大統領の外遊の難関は時間だ」

 これに対して三山氏が、サミットが行われる伊勢志摩から専用ヘリを使えば広島まですぐで、さらに広島の近くには岩国米軍基地があるからそこにエアフォースワンを回しておいて乗り換えればよい、というアイディアを述べた。高官が、

「広島から岩国までヘリでどれだけかかる?」

 と興味を示したので、

「15分くらいだ」

 と三山氏は答えた。

 会談の最後は

「この県民の要請は真剣なものと受け止める」

 という言葉で結ばれたという。

■オバマ大統領へのメッセージ

 こうした市民の活動が、今回の訪問、献花につながったといえるだろう。

 三山氏は手記の中で、市長らが謝罪を求めていないことに加えて、市民からもそのような声がないことを強調する。

「被爆者団体の坪井直理事長(90)でさえ、『オバマ大統領に謝罪のハードルを課すのは核廃絶の近道ではない。憎しみを超えて世界を考え、被爆者は苦渋の選択で大統領の広島訪問を熱望している』と語っています。広島テレビは近年、『オバマへの手紙』という企画を展開していますが、『謝罪のための広島訪問』の声はありません」

 そして、オバマ大統領に次のように呼びかけている。

「オバマさん、たじろぐことなく、広島訪問をレガシーの集大成としてください。広島は日米開戦の真珠湾のホノルルとは姉妹都市です。

 オバマさん、あなたの故郷ですよね。

 これまで、広島の平和公園にはローマ法王ヨハネ・パウロ2世、潘基文・国連事務総長、サマランチIOC会長や、大統領離任後のロシアのゴルバチョフ氏(読売新聞社が招請)、ドイツのワイツゼッカー元大統領、キューバのフィデル・カストロ議長らが訪問、慰霊碑に献花しています。

 残るはオバマさん、あなたです。カーター氏のように退任後では意義が半減します。在任中の訪問が国際政治上も重要で、他の核保有国にも影響力を行使できるのです。

 広島市民は寛大さと寛容な心でお待ちしております」

 広島市民に限らず、原爆投下当時に生まれてもいなかったオバマ大統領に対して「謝罪」を執拗に求める人は現代の日本人には少ないだろう。

 こうした日本の空気を知れば、オバマ大統領の広島訪問もより現実味を帯びるのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

新潮45 2015年12月号掲載

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