米“老人の射撃訓練急増”をウォール・ストリート・ジャーナルが報じた裏事情
驚くべきことに米国では、1775年に始まる独立戦争以来の戦死者数と、1963年のケネディ大統領暗殺事件以後、国内での銃による死亡者数を較べると、後者が前者を上回るという。
「年3万人以上が銃で命を落とすアメリカには、現在、3億丁の銃が存在すると推計されています。殺人事件の67・5%が銃によるもので、世界的経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)も老人が犯罪を恐れて射撃訓練場に殺到していると報じました」(外信部記者)
銃規制問題が大統領選を左右する?
同紙は全米ライフル協会による数字として、公認インストラクターが行う銃の基礎訓練コースでは、65歳超の受講生が5年前の4倍に達しており、全米の銃ディーラーが〈犯罪やテロを恐れて射撃訓練を受ける高齢者が増えていると話している〉とする。また、こうした高齢者需要を一因として銃市場が活況を呈しており、銃器メーカーのスミス&ウェッソン社の株価は過去1年で2倍以上に上昇した、と経済紙らしい分析を加えてもいる。
「毎週のように起こる銃乱射事件の影響で、市民の武装強化が進んでいると朝日や毎日といった日本の新聞も報じていますが、一因は今年1月、オバマ大統領が銃規制強化を発表したこと。皮肉なことに、銃が買えなくなる、と駆け込み需要が急増したのです」(同)
銃を購入する際には犯歴などのチェックを受ける必要があるが、昨年12月から今年2月までの犯歴調査は前年同期の29%増。銃規制強化にもかかわらず、需要が伸びているようなのだ。
外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は言う。
「それは事実でしょうが、一方で、銃を保有する家庭数や個人は減少したという調査もあります。むしろ、こうした報道がなぜ大統領選のさなかに出るかを気に留めておいた方がよいでしょう。WSJ紙はブッシュ共和党政権時代はネオコンの機関紙のようでしたし、そもそも共和党寄り。銃規制問題は人工中絶などと並んで世論を真っ二つにする大問題ですが、今回の大統領選の争点のひとつです」
〈銃乱射事件を止めるのは銃〉と発言したドナルド・トランプを含め、共和党候補は全員、銃規制反対派だ。
保守派の大票田、全米ライフル協会の姿が透けて見えるではないか。