イスラム国に入りたかった「時給850円」フリーターの日々是好日
自分で考えろ。誰も脳味噌を貸してはくれない――。作家・曽野綾子氏が『アラブの格言』に綴った警句は、砂嵐とも戦闘とも無縁な国に生まれた23歳のフリーター青年の目には留まらなかった。彼がすんでのところでイスラム国入りを免れたのは、もはや神の御加護によるものと言う他ない。お蔭で今日も、日々是好日の有り難味を噛み締めることが出来るのだから。
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イスラム国はついに“日本人戦士”を雇い入れたのか。3月22日、トルコの軍警察がイスラム国入りを試みた数名のシリア人と、日本人の青年を拘束したと報じられたのはご承知の通り。
だが、トルコから国外退去を命じられた青年が自宅のある和歌山に舞い戻ると、続報は一気に尻すぼみとなる。捜査関係者によれば、
「県警が任意の聴取を行いましたが、シリア入りの目的を尋ねても“日本での生活が嫌になったから”。シリア人に“私も戦いに加わりたい”とメッセージを送ったことは認めたものの、“イスラム国を見学するつもりだった”と拍子抜けする供述ばかり。駆けつけた政府関係者も呆れ果てていた」
結局、携帯の履歴からイスラム国関係者との接触は確認できず、黒縁メガネのお騒がせ男は、何の罪に問われることもなく解放されたのである。
実際、“事件”前の彼はテロリストとはほど遠い生活を送っている。3月上旬まで勤務した金属部品工場の社長が語る。
「ハローワークからの紹介で昨年10月にアルバイトとして雇ったんです。イスラム国なんてとんでもない。職場ではとにかく大人しくて友達もいなかった。仕事は8時間勤務で時給は850円。出来上がった部品を検品する単純労働でした」
■AK−47
月給15万円に満たないフリーター青年は、4人兄弟の長男で、父親は農協勤務というごく一般的な家庭に育った。だが、平穏で退屈な生活を送るなかで、彼は傭兵に月6000ドル(約68万円)を支給するというイスラム国に惹かれていたらしい。
「戦場が舞台のガンシューティングゲームにハマっていて、モデルガンも持っていた。本物の銃にも関心があって、イスラム国の兵士が使うAK-47というアサルトライフルについて熱っぽく語っていました」
高校の同級生のひとりはそう証言する。とはいえ、
「あいつの場合は単なるオタク的な興味。もともと美少女アニメが好きで、放課後は友達と『遊戯王』のカードゲームで遊んでいた。行動力はないし、運動も苦手な帰宅部だから、イスラム国の兵士のイメージとはかけ離れています」(同)
その一方で、彼がホンモノの戦場に足を踏み入れる直前だったのは間違いない。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が言う。
「彼が拘束されたのはトルコからイスラム国に入るメインルートです。彼の本心はともかく、トルコの軍警察に気付かれずに進んでいればイスラム国に拘束されていた可能性も十分あった」
冒頭の『アラブの格言』にはこんな言葉もある。
〈悔い改めは役に立たない。災難(悪)から遠ざかって楽しく暮らせ――〉
命からがら平和な祖国に戻った彼が、終生、胸に留めるべき警句である。
「ワイド特集 三日見ぬ間の桜かな」より
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