退潮「イスラム国」を利する「トルコ」「クルド」対立

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 もはや“籠の中の鳥”の過激派組織「イスラム国」。60カ国以上から成る有志連合に、一部撤兵を表明しながらいまだ空爆を続けるロシア、地上部隊を支援するイランにクルド人部隊と全方位から囲まれた状態だ。

「強まる圧力にイスラム国はイラク国内の最大拠点モスルから兵を抜き、シリアの拠点ラッカに回しています。幹部やその家族、現金、装備品などもモスルから移動しているようです」(国際部記者)

 現代イスラム研究センターの宮田律所長も言う。

「イスラム国の支配地域は昨年初めと比較して22%減少したという数字もあります。退潮していることは間違いありません」

 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏の言はこうだ。

「年内にイラクの主要な町からイスラム国がほぼ掃討される可能性もあります」

 残るはシリアだが――。

「シリアのクルド人勢力が、17日、事実上の独立を宣言、これにはトルコが黙っていないでしょう」(同)

 シリア内戦で支配地域を広げたクルド人は、少数民族と言われるものの、国を持たない世界最大の民族集団。およそ3000万人がイラン、イラク、シリア、トルコに分布し、シリアとトルコには1500万人が住むと言われる。政治姿勢も共通で、トルコ政府は分離独立を訴えるクルド人反政府組織PKKの武装闘争に長年、悩まされてきたため、因縁は根深いのだ。

「しかも問題は、シリアのクルド人民兵を、米軍がイスラム国掃討のため支援していたことです。自前の地上部隊は送れず、反政府組織が頼りにならなかったアメリカは、地上戦で彼らをあてにしたのです」(同)

 ところが一方のトルコはNATO所属の同盟国。アメリカはトルコとクルドの板挟みにならざるを得ない。

「そんな両者が戦火を交えでもしたら、イスラム国を利するだけです」(同)

“籠の鳥”そっちのけで新たな「かごめかごめ」が始まれば、アメリカの後ろの正面はトルコか、クルドか。

週刊新潮 2016年3月31日号掲載

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