長野県松川村が“国内の平均寿命男性1位”である理由 「1人暮らしの83歳」と「84歳の現役農家」を訪ねて〈長寿村でやってみた「突撃! 隣の晩ごはん」(3)〉

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 これまで、“長寿の郷”で知られる京都府京丹後市、“女性の平均寿命最長”という沖縄県北中城(きたなかぐすく)村を訪ねてきた「突撃! 長寿の村の晩ごはん」。長寿者の生活習慣、ストレス解消長寿者を通して学ぶ、長生きのヒントはいかに。

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長野県松川村

 世界の中でも、日本の平均寿命は、女性がトップで男性は香港、アイスランドについで第3位と、指折の長寿国だ。では、その日本国内で平均寿命男性1位の長野県松川村を見てみよう。

 長野県の北西部に位置する松川村は、松本から車で30分。村の北西側には北アルプスの山々が顔を覗かせる。村の半分以上は森林が占め、平野部には雪を被った田園地帯が広がっていた。

■“清原の気持ちも分かるなあ”

 村にある健康福祉施設のプールで、水中歩行をしに来たという高田尚武さん(83)に出会う。

正調安曇節の保存会でも活動している高田尚武さん

「週に2~3回来ています。水中で10分歩いて5分休んで、計30分の運動です」

 他に脳機能を活性化させるための体操教室にも、月数回、通っている。

 村で生まれ育った高田さんは、地元の化学工業メーカーの設計部門で定年まで勤務した。

「会社の尺八クラブに入って、以来45年、今は新都山(とざん)流の大師範の上、竹琳軒(ちくりんけん)という位にまでなりました。介護施設を訪ね、尺八を披露するのが生き甲斐です」

 昨年は50回ほど演奏し、村の無形文化財である正調安曇(あずみ)節の保存会でも活動。趣味に忙しい高田さんの食生活を聞かせてもらおう。

「妻が一昨年に認知症のため施設に入り、私一人だから、簡単なものです。今朝は、ごはん、味噌汁、スーパーで買った『醤油の実』という、麹を発酵させて黒豆を入れた郷土料理。これをごはんに乗せて食べました」


 今晩の献立は、マグロの刺身、サツマイモとカボチャの天ぷら、煮豆、親戚から貰った沢庵、玉ねぎと刻み揚げ入りの味噌汁。一応、減塩運動が盛んな長野県だけに、塩分を気にしているようで、味噌汁は薄味だ。煮豆は程よい甘さ。だが、醤油の実は、食べられないほどしょっぱい。

高田さんの晩ごはん

 ところで、一人の食卓は淋しくないのか聞いてみた。

「そりゃあ、淋しいですよ。ごはんを食べるときは、特に感じます。捕まった清原も離婚して、一人になって淋しがっていたらしいけど、分かるなあ、気持ちは。だからって私はあんなことやらないですけど。私は趣味があるので、楽しく過ごしていますよ」

■筋肉で注射針が刺さらない

 続いての市川忠仁さん(84)の場合は、今も1200本のリンゴ栽培を行なう“現役”だ。

市川忠仁さん

「もう少し雪が解けたら、春まで枝の剪定が続きます。朝5時に起きて、日が暮れるまで仕事です」

 花が咲いたら、間引き作業が始まり、夏から年末まで収穫作業が続く。一息つけるのは1月一杯だけだ。

「戦後間もない食糧難の時に、入植して原野を手作業で開拓したんだ。その頃に鍛えられたから、今も頑張れるんだと思います。風邪とかひかないよ。数年前に健康診断で血液を採る時、筋肉で注射針が刺さんなくて大変だったんだから」

 年齢を重ねても体を動かすことが健康に結びついたのではないかと市川さんは言うのだ。他に心がけていることはあるのだろうか。

「趣味で日本画を描いています。昨年は県の展覧会で奨励賞を貰いました。別にプロになろうとかじゃない。気持ちをすっきりさせるためです。夏は毎日夜8時から2時間。冬はやらない。絵具が凍っちゃうからね」

■9割が「趣味を楽しむ」

 食べ物はどうだろう。妻の賀久子さん(77)によると、

「ここ10年、黒豆の豆乳を作って、毎朝飲んでいます。主人は野菜嫌いで、カレーを作っても、人参、ジャガイモはよけてしまう。無理やり食べさせていますけど。あと塩気は薄味にするよう心がけているかな」

 今朝の朝食を再現すると蒸しキャベツに乗せた目玉焼き、ウリと野沢菜の漬物、醤油の実、具だくさんの味噌汁。心がけているだけあって、野菜は味噌汁の具として多く入っている。が、味は濃いめ。漬物に至っては、かなり塩気が強い。

市川さんの朝ごはん

 2年前に松本大学の研究チームが松川村の長寿要因を探るため、食生活と生活習慣について聞き取り調査を行なっている。「食」に関して調査した健康栄養学科長の廣田直子教授は、

「摂取エネルギーが同じとした場合、お年寄りは若い人に比べて、野菜、イモ類、果物、魚を多く摂っていることが分かりました。調べた栄養素39項目のうち、ビタミン、ミネラル、たんぱく質、炭水化物など、実に29項目が多いのです」

 様々な食品をバランスよく食べていることが、長生きに繋がっているのではないかというのだ。そして、生活習慣について調査した同大観光ホスピタリティ学科の山根宏文教授が言う。

「特筆すべきは、趣味を楽しんでいるという回答が、村では9割に上ったことです。国の全国調査によると75歳以上の男性では6割ですから、村の人々は、何らかの趣味を持ち、楽しんでいる人が多いのです。贅沢な暮らしでなくとも些細な喜びに満足して幸福を感じて暮らす。これが長生きに通ずるのだと思います」

 バランスのよい食生活が必要不可欠だが、それだけで健康な長生きはできない。生き甲斐を持って、日々、楽しく暮らす――。それは、言うほど容易(たやす)いことではないわけで、さっそく、原稿を書きながら、深夜、コンビニ弁当を貪るのだった。

「特集 京都 沖縄 長野 長寿村でやってみた『突撃! 隣の晩ごはん』」より

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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