福島第一原発を視察した「田原総一朗」(1)“核燃料サイクルのメドが立たなければやめざるをえない”

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【田原】 漁協がオーケーしませんものね。漁協との話し合いはどうするんですか。

【増田】 タスクフォースの議論を踏まえてしっかりとご説明いたします。一番大事なところです。

 いよいよ、バスで福島第一原発に向かった。昨年9月、避難指示が解除された楢葉町を通る。

【増田】 人口7500人ですが、まだ400~500人しか戻られていないです。

【田原】 400人くらいで住むのは大変ですね。スーパーマーケットも400人じゃ商売にならないね。

【増田】 だから、この界隈には東京電力の社員が多くいるので、期待はされます。

■作業員の姿をプロのカメラマンが撮影

 続く富岡町は帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域で全域が占められている。だが、除染が進み、スーパーの開店や住民帰還の計画があるという。大熊町に入ると、かつての水田に低木が生い茂っている。

 福島第一原発に着くと、わずか1年前と大きく異なるのは、作業員たちが普通の服装で歩いていること。以前はみな防護服を着ていたのだ。

 まず大型休憩所へ。2階には食堂ができ、この日、ローソンもオープンした。上階には休憩所も。以前はみな雑魚寝していたから、労働環境は雲泥の差だ。展望台から原子炉建屋やタンク群を眺めたあと、1階のモニターの前へ。そこではエリアごとの放射線量がリアルタイムで確認できる。

取材当日にオープンしたローソン

【田原】 作業員は今、どこに行くんですか。

【増田】 今までは建屋まわりの凍土壁が多かったですが、建屋の中も増えてきました。

【田原】 中に入ってるの?

【増田】 線量が高い場所に近寄らないように作業してもらい、時間も絞っています。

 さて、各自線量計を持ち、バスで構内を回るが、その前に、作業員たちが写されたポスターの前で増田氏が立ち止った。

【増田】 福島第一がテレビや新聞に出るのは、悪いニュースの時ばかりです。そこで、ここでの仕事に矜持を持ってもらうため、作業現場をプロのカメラマンに撮ってもらって、それをHPにアップしています。

■小野所長と面会

 バスの中から汚染水のタンクが眺められる。今は1000個のうち700個は、漏洩リスクが少ない溶接型のタンクに置き換えられた。また、舗装された部分が増えたが、除染および雨水が地下水に浸透するのを減らす意図があるのだという。

構内のタンクの横を通る田原氏と澤田氏

 バスを降りて免震重要棟に入ると、福島第一の小野明所長が出迎えた。

【小野】 汚染水や廃炉で進展があった5年間だと思います。サブドレンも稼働を開始し、陸側の遮水壁も稼働すれば、汚染水の発生をもっと抑えられると思います。廃炉も4号機は燃料の取り出しが終わり、3号機は今年夏ごろ、上部に遠隔操作で燃料を取り出す設備を作る予定です。1号機もカバーを解体し次第、がれきの撤去に入ります。

【田原】 廃炉作業にはいつごろから入るんですか。

【増田】 デブリ燃料の取り出しは初号機で2021年からですが、使用済燃料の取り出しも含めれば、もう始まっています。

【小野】 3号機も主ながれき撤去は終わっています。

【田原】 炉内はカメラで見えるんですか。

【小野】 1号機は(圧力容器などが収容される)ドライウェルというところに去年、カメラを入れました。2号機は実は、水の溜まり方が少ないので、一番見やすいのではないか。逆に3号機は水がかなり入っているので、デブリを見るには水中を泳ぐロボットを開発しないといけません。

■田原氏が語る、原発の将来

 再びバスで、ALPS(多核種除去設備)、古いタンク群などの横を抜けて、4号機から順に建屋の前を通ったが、線量は時に300マイクロシーベルト/時を超えた。5、6号機の脇を抜けたのち、入退域管理棟に戻ってきた。

燃料が取り出された4号機

【田原】 よくやっていますね。事故前からこれだけ気をつけていれば事故なんて起きなかったんですよ。

 Jヴィレッジに向かう車中、田原氏が自身の原発取材の原点を語った。

【田原】 原発の取材を始めたきっかけは原子力船むつです。1974年に試験運転で放射能が漏れて大事件になって、青森のむつに取材に行ったんですが、反対派の集会に行ったら“むつがひっくり返ったら青森は第2の広島になる”と。無茶苦茶言うなと思って推進派の集会に行くと、“放射線は体に良くないなんてことはない。ラジウム温泉は放射線です”と言う。反対派も推進派も無茶苦茶言って、これじゃ原発がかわいそうだと思ったわけ。本当は何なのか調べてみようと思ったのがきっかけなんです。

 田原氏は、原発の将来はどうあるべきだと思っているのだろうか。

【田原】 核燃料サイクルをどうするか、あいまいなんですよね。この終着点があれば原発は続けてもいいけど、そのメドが立たなければやめざるをえませんよね。

 ***

(2)へつづく

「特集 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 特別篇 福島第一原発を視察した『田原総一朗』」より

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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