“女性の平均寿命世界一”沖縄県北中城村でいただく「長寿ごはん」〈長寿村でやってみた「突撃! 隣の晩ごはん」(2)

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 長生きの秘訣とは何か――長寿者が多い地域を実際に訪れ、地元の方に話を聞き、その暮らし方からヒントを探る本シリーズ。「長寿の郷」として知られる京都府京丹後市の次は、“女性の平均寿命”が日本で最も長いとされる地に赴いた。

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 2013年に厚生労働省が発表した「平成22年市区町村別生命表」によれば、平均寿命日本一は、男性が82・2歳の長野県松川村、女性は89・0歳の沖縄県北中城(きたなかぐすく)村とされている。

 女性1位の北中城村は、那覇から北に車で40分。村の東には、中城湾が広がり、海岸線から少し内陸に入ると起伏の激しい丘陵地帯となる。村内には昨年オープンの巨大ショッピングモールもあり、那覇の「郊外」といった雰囲気だ。

沖縄県北中城村

 村で元気なお年寄りを探すと、近所に100歳の安里静子さんがいるという。自宅を訪ね、話を聞いた。

■安里静子さん(100)の昼食

 戦前に夫と死別した静子さんは、戦火の下、子供を抱えて生きながらえた。

「山で15日間も野宿したし、遺骨を退かした6畳ほどのお墓の中に隠れていたこともありました」

 戦後は、米軍の宿舎を作る際、大工の下請けなどの力仕事をし、女手一つで3人の子供を育て上げた。苦労を重ねたことが、今日の活力に繋がっているのか。

「朝6時に目を覚ますと、庭の掃除や草取りから始まって、今は、機械がするだけだから自分で洗濯しますし、畑でほうれん草やゴーヤーなどを作っています。天候次第では、近所を散歩し、馴染みの家に遊びに行きます」

 テレビが好きで、相撲をよく見ているが、白鵬ばかりが勝って、つまらないとぼやく。肝心の食事は、

「好き嫌いなく、何でも食べます。豚肉、鶏肉も食べますが、間食はほとんどしません。毎日、野菜を多くとるよう心がけ、ほうれん草や、ネギ、夏ならゴーヤーなどを煮込んだり炒めたりして食べています」

安里静子さん


 ちょうど、お昼ごはんを食べる頃合いだったので、見せていただこう。

 今日の食卓のメインは豚足とキャベツ、人参、大根が入ったカツオ出汁の煮物。そして、ごはん一膳とゆで卵一つ。

安里静子さんのお昼ごはん

 煮物は柔らかく煮込んであり、野菜はもちろん、豚足も箸をつけた途端に崩れるほど、トロトロに柔らかい。スープは……、塩気がまるでなく、出汁の味のみ。いかにも長寿のごはんという感じだ。最後に長生きの秘訣を聞いてみた。

「80歳過ぎたら、子供のように周りが勧めたことを黙ってする。嫁が作ったものは、ありがたく食べ、嫌なことがあっても文句は言わない。そんな時は畑に行き、仕事をすればいいんです」

 この後、地元地区の敬老会に出席すると言い、立ち上がると、杖も持たずにスタスタ出掛けて行った。

■カップラーメンを食べることも

比嘉さん夫妻

 さらにもう一人、安里さんの向かった敬老会で出会った比嘉文子さん(83)。お見合いで結婚した夫の善孝さん(84)とは、今でも仲がいい。同居する孫の一枝さん(38)によれば、

「いつも一緒にいて、体が痛いというとお互いにマッサージしたりしています」

 朝6時に起きると、空手六段のご主人は、居間で1時間、「ボケ防止」のため空手の型を練習する。その間、文子さんは食事の準備や洗濯、掃除に取りかかる。

「朝食はパンに卵、サラダボウル一杯に入れた自家製の野菜を食べます。セロリ、レタス、ほうれん草、トマト……、他に牛乳を多めに入れたコーヒーに、黒糖を入れて飲みます」

 食後は、畑に二人で向かい、野菜、サトウキビ、マンゴーの手入れ。収穫した野菜は近所に配るという。

「昼食は、お弁当を持っていくか、畑の小屋で、カップラーメンを食べたり。今日のお昼は、家で簡単に済ませました」

■脂分の少なさが、長生きに

 翌日、晩ごはんをご馳走になった。献立は、牛焼き肉にシーチキン入りのコロッケ、ほうれん草のピーナッツ和え、そして、椎茸と豚モツが入った沖縄名物の中味(なかみ)汁。やはり、塩味は薄いが、モツに脂分がほとんどない。まるで湯葉のように柔らかい上品な味だ。

比嘉さん夫妻の晩ごはん

 レシピを聞いてみたところ、臭いを取るため、モツを小麦粉でよく揉み、お湯で洗った後に、今度は塩でよく揉む。再度お湯で洗い、次は油で揉んで洗い流し、最後に酢で揉む。これを繰り返すこと7回ほど。臭い取りの手間が、結果的に脂分をなくすようだ。

 琉球大学名誉教授で、沖縄長寿科学研究センターの鈴木信氏によると、この脂分の少ない食事法が、長生きに繋がっているという。

「私が研究を始めた40年前は、沖縄にはもっと大勢、元気なお年寄りがいました。戦争の影響で粗食だったことが、結果的には幸いしたのかもしれません。なにより、沖縄の食事は元々、とても質素でした。そのことが長寿に関係していると考えられます。肉類は8時間ぐらい煮るため、脂分が抜け、自然と生活習慣病の元となるコレステロールの摂取量を少なくできたのです。ところが、戦後、アメリカの文化が入り、野菜やイモ類中心の食生活が肉食へと変わります。結果、脂を多く摂り、ハンバーガーを食べる若い世代が短命になってしまったのです」

 長年、長寿県として知られていた沖縄の平均寿命が、2000年に県別で26位へと転落した原因は、そのためだと鈴木氏は言うのだ。だが、一方で、食生活だけでは健康な長生きはできないと強調する。

「例えば沖縄には古くから、サトウキビの収穫の際に助け合うといった、共助の精神がありました。人との繋がりが大切で、世の中に貢献して喜びを感じ、生き甲斐を持つことが健康長寿に繋がるといえるでしょう」

「特集 京都 沖縄 長野 長寿村でやってみた『突撃! 隣の晩ごはん』」より

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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