「班目春樹」元原子力安全委員長が「3・11事故」をマンガにしたワケ
〈撤退など許さないぞ!〉そう怒鳴る男に東電の社長が〈撤退などしません〉と反論する。ところが、頭に血が上った男は〈60以上は死んだっていいだろ!〉とまた当たり散らす。福島原発事故から5年、元原子力安全委員長の班目(まだらめ)春樹氏(67)は、なぜ、当時の修羅場をマンガで描いてみせたのか。
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元原子力安全委員長の班目春樹氏(67)
〈班目春樹のページ〉
そう題されたホームページには七十数編もの4コママンガが載っている。原発事故が発生した当初から班目氏が見聞したこと。そして、国会に呼び出された時の様子などがコミカルに描かれている。作者はもちろん、班目氏だ。
原発事故を巡っては国会や政府の事故調査委員会の報告書などが公開されているが、どれも読むのにひと苦労する専門用語がちりばめられている。一方、班目氏のマンガは、ヘタウマ風のタッチだが、政府のドタバタがよく分かる。
「もともと私は『おそ松くん』で育ったマンガ好き。東大教授時代には学生たちに身近に感じてもらおうと、自分で描いた絵を授業で使っていたのです。実際、スクリーンに映すと学生たちは驚いて見てくれる。いわば講義を聞いてもらうための“つかみ”みたいなもの。講演に呼ばれたときも、自作のマンガを使っていたのです」
そう話す班目氏。だが、当時の原子力安全委員長が“原発事故マンガ”とは、どういうつもりなのか。
「事故当時は委員会に原子力行政の責任があるかのように間違われて、ずいぶん袋叩きに遭いました(註・実際には内閣への助言)。それは、仕方のない部分もあったのですが、記憶がきちんとあるうちにホームページのような形で残しておけば、皆さん冷静になった頃に読んでくれるだろうと思ったのです。描きはじめたのは13年の春からで、公開したのは昨年の春。最近になって急に話題になり、むしろ私が驚いています」
■いまだに「菅」はトラウマ
マンガには、枝野官房長官、東電の清水社長、海江田経産大臣(いずれも肩書は当時)など、事故対応にあたった当事者が登場する。だが、1人だけ顔がない人物が。
〈ところで東工大にも専門家はいるか?〉
〈おい、どうしてベントをやらないんだ!〉
〈海水注入なんかできるか!〉
もちろん菅元総理だ。ご本人は、当時を振り返って、事故現場からの撤退を食い止めたと自慢しているが、単なる独り相撲だったことを班目氏は描いている。
「(菅元総理の顔を描かなかったのは)やっぱり、あの人の顔を思い浮かべようとすると、いまだにトラウマがある。拒絶反応が起きるんですよ。思い出したくもないから“カオナシ”で描いたのです」
もちろん、班目氏もベントの方法で混乱したアドバイスをするなど批判を浴びた一人だ。
「福島では、まだ、10万人近い人たちが避難されており、申し訳ない気持ちで一杯です。そういう意味では、もう少し何か出来なかったのかという思いが強い。ずっと考えているんですが“解”はまだ出ていません」
目下無職という班目氏は、続編を描くことを考えている。
「ワイド特集 春色の時限爆弾」より
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