不正融資150億円で逮捕なのに「泰道三八」人脈はきら星の如く

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 バブルとともに去りぬ――。1995年、バブル崩壊の影響でコスモ信用組合の経営が破綻すると、翌年、理事長だった泰道三八(たいどうさんぱち)氏(71)は、不正融資150億円超の背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された。その泰道氏が、改めて自身の「罪」について総括する。私は贖罪(しょくざい)の山羊だった、と。

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麻生氏とのツーショット

 95年7月、コスモ信組の経営破綻が報じられると、戦後初となる取り付け騒ぎが出来(しゅったい)した。

「窓口に長蛇の列ができていて、『これはもうダメだな』と思いました」

 偉そうに語れる立場ではないと躊躇していた泰道氏は、重い口を開く勢いをつけようとしているのか、馴染(なじ)みの寿司屋で「乾杯のビール」の泡(バブル)を胃に流し込みつつこう回想を始めた。

「当時、バブルが弾けて、政府としては大手銀行が連続破綻することだけは何としても避けたかった。しかし、公的資金の投入に野党は猛反発。適当な金融機関で取り付け騒ぎを起こし、国民に危機感を持たせることで公的資金投入の下地(したじ)を作りたい。かといって、都銀は潰せないし、あまりに預金額が少ない金融機関ではインパクトが小さい。そこで預金額が1兆円近くあり、『泰道三八』という目立った経営者がいるコスモに『白羽の矢が立った』のだと思います」

 コスモ信組やエスエス製薬などを擁する「泰道グループ」を率いていた泰道氏は、28歳で東都信組(後のコスモ信組)の理事長になると、「普通銀行転換」を目指して拡大路線をひた走る。

 一方、総選挙に出馬し、80年に当選して自民党に入党。だが、100人以上の選挙違反による逮捕者を出した結果、83年の選挙で落ち、その後、コスモ事件で塀の中にも落ちた。確かに「目立つ」経営者だった。

 白木のカウンター越しに、「ハイボール、ダブルで!」と注文した泰道氏が回顧を続ける。

「私の逮捕は国策捜査だったと考えています。でも、刑務所に入ったこと自体は納得しているんです。破綻に伴い、コスモにも数千億円の税金を投入してもらいましたからね。ケジメとして服役するのは当然です」

 こう殊勝に語る彼は現在、

「いくつかの会社の相談役や顧問をやって、妻と2人で生活しています」

 同時に泰道氏が主宰する「三八会」なる勉強会では、当選同期の平沼赳夫元経産相が代表世話人を務め、現在も政界との関係は深い。なお、泰道氏の姪は小泉純一郎氏の元妻である。

■カネをくれなかった角さん

政治家時代は鈴木善幸氏率いる宏池会に所属

「私が刑務所にいた2年3カ月の間に、平沼さんは5回面会に来たし、古賀誠さん(元運輸相)も久間章生(ふみお)さん(元防衛相)も会いに来てくれました。ありがたいことに、逮捕後に離れていった方たちはいません」

 事実、人が人を呼ぶようで、三八会には平沼氏以外にも、麻生太郎副総理、塩崎恭久厚労相、野田聖子自民党前総務会長らに加えて、外交ジャーナリストの手嶋龍一氏、「400勝投手」の金田正一氏など、各界の錚々たる面々が名を連ねる。

 グラスをお猪口(ちょこ)に持ち替えた泰道氏の話は、政治家時代の「人脈」へと移った。

「代議士になった当初、私は生意気にも田中角栄さん、三木武夫さん、福田赳夫さんに『ご挨拶に伺いたい』と連絡を入れたんです」

 泰道氏によるその時の「歴代総理月旦」はこうだ。

「真っ先に返事をくださったのは角栄さんで、目白邸でお話をさせていただきました。私が『永田町は2代目、3代目ばかりでおかしいのではないか』と言うと、角さんは『泰道くん、人間はみんな2代目、3代目なんだ。お父さんに感謝しなければダメだよ』と。懐が深いというか、魅力的な方でした。でも、角さんの家に行けば100万円単位のカネをもらえるって話だったのに、私にはくれなかったな。経営者だから金持ちと思われたんですかね」

 その次の福田事務所では、

「福田先生が選挙違反の話を持ち出して、『悪名は無名に勝るという言葉を知っていますか』って。慰めているんだか何だか……」

 そして3番目に、

「もったいつけて会ってくれたのが三木先生。ポケットに手を入れながら、やはり選挙違反の話に触れて、『配ったカネは本当はもっと多いんだろ?』と。結局、選挙違反の話をしなかったのは角さんだけでした」

 並みいる総理経験者を肴(さかな)に次々と熱燗を空にした泰道氏は、最後に、再びバブルについて言及した。

「各国で金融緩和が行われていますが、少なくとも我々バブル体験世代が生きている限り、バブルは来ないでしょう。株の値上がりを期待して投機的に買っている人がいますが、株予想なんて当たるわけがない」

 濡れ手でアワの時代は去りぬ――との「バブル当事者」としての訓戒を残し、泡に始まった「総括酒宴」はお開きとなったのだった。

「60周年特別ワイド 輝ける明日への遺言」より

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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