法廷に異例の証拠提出「Nシステム」とは何か?

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 2005年12月に起きた、栃木県今市市(現・日光市)の小学1年女児殺害事件。その裁判員裁判で3月1日、検察側がある証拠を提出した。被告が栃木県鹿沼市の自宅と遺体遺棄現場を往復した時の記録である。

「それは“Nシステム”のものでした。栃木県内の3カ所で計5回、被告の車が通過した記録を、“客観的証拠”として出したのです。これは極めて異例のことでした」(社会部記者)

 Nシステム――自動車ナンバー自動読取装置とは、警察庁が1986年から整備を始めた、通行車両のナンバーを自動的に読み取るものだ。昨年5月時点で全国の設置数は1690。意外と少ないようだが、

「10年ほど前から、低価格で設置も容易な“簡易型Nシステム”を各都道府県警が導入しており、これも加えると全国に数千台の装置があることになる」(同)

 何の気なしに運転していても、ナンバーはどこかで常に記録されているのだ。

「これはプライバシーの侵害、憲法が保障する移動の自由の侵害にあたると、98年と07年に国家賠償請求の訴訟を起こしたのですが、いずれも最高裁まで行って敗訴しました」

 と言うのは、交通ジャーナリストの今井亮一氏だ。

「裁判で明らかになったのは、Nシステムと簡易型システムがリンクしていること。システムの画像記録機能については“秘密”であること。さらに重要なのは、警察庁が“(自動読取)業務により判明した事項を、公判に証拠として提出してはならないものとする”という通達を20年前に出していた、ということです」

 証拠たりうるためには、設置場所を開示する必要がある。が、“設置場所が明らかになれば、犯罪者が破壊したり、そのルートを使わないなど支障が出る”という懸念から、Nシステムは“捜査支援”用だと、あくまで秘密にしてきた。だからこそ、今回の“証拠提出”は異例なのだ。

「秘密だと、記録の客観的検証も難しいし、捏造される可能性だってある」(同)

 しかも、常に憲法違反を指摘される恐れがあり、

「Nシステムと簡易型システムのリンクをはずしたようだ」(警察関係者)

 わからないことばかり。

週刊新潮 2016年3月17日号掲載

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