分裂から半年 「六代目山口組」と「神戸山口組」の抗争が激化する理由

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山口組六代目組長・司忍

 2月中旬以降、明らかに暴力のステージが上がった――。暴力団ウォッチャーはそう評するが、今後、「報復の連鎖」は臨界点に向けてさらに激化する、との見方もある。分裂から半年。六代目山口組と神戸山口組の「静かなる抗争」の裏では何が起こっているのか。

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 その目撃者が袋叩きの乱闘を目の当たりにしたのは、2月15日夕刻である。

 場所は、居酒屋やクラブが軒を連ねる新宿・歌舞伎町の区役所通り。最初に目に飛び込んできたのは、数人の男が歩道でもみ合っている様子だったが、よく見てみると、迷彩柄の上着を着た男がそれ以外の男たちに取り押さえられていることが分かった。

 そのうちに男たちは、被害者が着ていた迷彩柄の上着を無理やり脱がし、腕を掴んで車道の方へと引っ張りながら彼の頭部に容赦なく膝蹴りを入れる。“オラァ!”“なんだ!”という怒号が飛び交う中、どこから集まってくるのか、4人、5人と暴行に加勢する男の人数が増えていく。頭突きにとび蹴り……。男らからの攻撃に対し、それでも被害者は何とか腕を上げてファイティングポーズを取ってみせるが、次の瞬間、1人の男の拳が彼の顔面にもろに入ると、車道にへたりこんでしまった。しかし、それでも男たちの攻撃は止まない。グロッキーになっている被害者を数人で取り囲み、よってたかって蹴りまくる。彼らは渾身の力で被害者の頭を何度も蹴り上げており、その度に“ボスッ”という重い音が響く。ほどなくして、どこからか“行くぞっ!”という声が上がると、男たちは被害者を置き去りにして、一斉に現場を離れた――。

「その被害者は山口組が分裂した後、六代目山口組側から神戸山口組側に寝返った男でした。この日は歌舞伎町で神戸山口組側の会合が行われる予定になっていて、警戒要員として現場入りしていたのです」

 と、暴力団事情に詳しいジャーナリストは語る。

「また、この日は、神戸側が会合を行うという情報をつかんだ六代目側の組員も歌舞伎町に集まってきていた。被害者の男に暴行を加えていたのは、被害者が元々所属していた組の組員らと見られています。被害者の男が歌舞伎町にいるのを見つけ、“裏切り者発見”ということでリンチになったのでしょう」

■“弘道会やで!”

 実は、この日、歌舞伎町で起こったトラブルはこれだけではなかった。

「暴行事件の後、神戸側が懇親会を行う予定になっていた飲食店の付近で、神戸側の組員50人ほどと、六代目側の組員50人ほどがにらみ合う事態になったのです。神戸側は、井上邦雄組長の出身母体である山健組の組員、六代目側は司忍組長の出身母体である弘道会や秋良連合会の組員などが集まっていた。さらにそこへ警察官もかけつけ、一触即発の異様な雰囲気になった」(同)

 また、その飲食店前の車道を1台の黒塗りの高級車が通ると、“弘道会やで!”との声が神戸側の組員から上がり、

「神戸側の組員が弘道会の車を取り囲み、運転手を車から引きずり出そうとしたのです。すると、懇親会が行われている店の入口から“手を出すな!”という声が上がり、問題の車はそこから去って行った」(同)

 それにしても神戸側は、なぜ車が弘道会のものだとすぐに分かったのか。

「この歌舞伎町のトラブルの前、神戸側の幹部である山健組の山之内健三若頭補佐(誠竜会会長)の埼玉県八潮市内にある自宅周辺を弘道会の車がぐるぐると走り回り、挑発するという騒動があった。神戸側はその時に車のナンバーを控えており、同じナンバーの車が歌舞伎町にいたので“弘道会や”となったのです」(同)

■自宅への発砲、舎弟への暴行も……

 不穏極まる歌舞伎町騒乱事件。が、それは報復の連鎖の前兆に過ぎなかった。その後、山之内会長の周辺で事件が相次いだのだ。

「まず2月18日にも、山之内会長の自宅が、弘道会の組員と思しき人物らに取り囲まれる騒動があった。そして27日未明には、神奈川県厚木市内にある弘道会系吉田総業本部にトラックが突っ込む事件が起こった。この吉田総業のトップは弘道会の実力者で、神戸側は山之内会長を挑発しているのは、吉田総業の周辺なのではないか、と疑っていました」(暴力団関係者)

 音が鳴る――拳銃が発射されることをヤクザはそう表現するが、27日午後9時20分頃、埼玉県八潮市で音が鳴った。撃たれたのは山之内会長の自宅。発砲音がした、との通報を受けて警察官が駆け付けたところ、自宅外壁に複数の弾痕があるのが発見されたのだ。

「さらにその2時間半後、東京・足立区内の団地の敷地内で、山之内会長の舎弟が車から降りたところ、複数の男に暴行された。舎弟はナイフでも切りつけられており、全治2カ月の重傷を負いました」(同)

■「反撃」が始まった理由

 ここへきて急に騒がしくなった感がある、六代目山口組と神戸山口組の周辺。にらみ合いを続ける両陣営は現在、どれくらいの勢力を保持し、水面下では何が起こっているのか。

 山口組が分裂し、神戸山口組が発会式を行ったのは昨年9月である。分裂前、六代目山口組には72人の直参がいたが、現在は56人。一方、神戸山口組は13人の直参でスタートしたが、現在、その数は22人にまで増えている。また、警察庁によると、六代目山口組の勢力は1万4100人で、対する神戸山口組の勢力は6100人。こうした数字だけ見ると、神戸側が着々と勢力を拡大しているように思えるのだが、

「警察発表の数字は、相当“水増し”されている。正式な組員だけをカウントしたなら、実際の両者の勢力は六代目側が7000人、神戸側が1000人といったところでしょう」(先の暴力団関係者)

 六代目山口組の直参の1人はこう話す。

「向こう(神戸側)の団体数が増えたいうても、昔クビになった親分を現役に復帰させとるだけやから、付いとる組員も数人しかおらんのが殆どや。だからな、人数の多い山健組を除けば、動員を掛けるのも一苦労や。わしらに対して、挑発や示威行動もやりたないというのが、本音でしょう」

 神戸側の挑発には乗るな、という通達は今も出されているというが、

「こういう状況だと、どうしても挑発に乗ってしまう若いのが出てきてしまうのは仕方ないことです。むしろ、この半年間、よう辛抱したと思いますよ」(同)

 暴力団事情に詳しいジャーナリスト(前出)によると、

「ここへきて弘道会が反撃するケースが増えているのは、六代目山口組内部の事情にもよる。あまり山健組にやられっぱなしだと“弘道会ってこんなもんか”と、司忍組長の求心力が低下する恐れがある。で、適度に反撃を加えるようになったのです」

「特集 臨界点は目前という『六代目山口組』と『神戸山口組』」より

週刊新潮 2016年3月10日号掲載

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