「トランプ政権」誕生ならば「尖閣」「北方領土」問題の放置は必至
2月20日に行われた米大統領選・共和党の指名候補者争いは、ドナルド・トランプ氏(69)の快進撃を印象づけた。「トランプ・フィーバー」の熱気に押され、米大統領に――そんな事態が起きれば、ただでさえ混迷を極める日中関係に、暗い影を落としかねないと言うのは国際政治学者の島田洋一・福井県立大学教授である。
トランプ氏は〈中国はアメリカの雇用とカネを掠め取っている〉と罵倒するが、
「利益になると踏んだ相手とは、それまでの関係を無視してでも手を組む男です。習近平総書記は昨年の訪米で、300機ものボーイング機を“爆買い”しましたが、トランプ政権になればもっと魅力的な商談を持ち込む。代わりに“内政干渉はするな”ということですが、トランプ氏ならこれを呑むでしょう。すると、尖閣問題や南沙諸島問題にアメリカが首を突っ込めなくなる。さらに、資源に乏しく、アメリカにとって旨味のない北朝鮮や北方領土を巡る問題が放置されるのは目に見えています」
また、この大統領候補は、身内であるはずの駐日米国大使すらこき下ろす。
〈キャロライン・ケネディは安倍氏に飲まされ食わされ、日本が望むことを何でもするようになった。駐日大使にはアイカーンの方がふさわしい〉
島田教授が続ける。
「カール・アイカーンは著名な投資家で、分かりやすく言えば仕手筋のような存在。ホリエモンや村上世彰が大使になるのと変わりない。日米外交が拝金主義に塗れたマネーゲームになりかねません」
加えて、トランプ氏が敵視し続ける、日本経済にも累が及びそうだ。バブル期には、日本の資産家や大企業相手に、“トランプ印”の物件を売りまくって大儲けしたはずなのだが、その当時の発言も極めて辛辣だ。
〈日本人はやたらにペコペコして、われわれをおだて、最後にこっちの財布を空っぽにしている。彼らがニヤニヤと嘲笑っている間にアメリカの貿易収支は何千億ドルもの赤字になっている〉(米「PLAYBOY」1990年5月号)
そんな彼がいま、目の敵にしているのがTPPで、
〈アメリカを犠牲にして日本が大きな利益を得る協定〉
と言って憚らない。
中西輝政・京都大学名誉教授は、
「トランプ氏はかねてから、国内産業の弱体化に繋がると、TPPには否定的でした。安価な商品が国内に溢れれば、アメリカ企業の業績が悪化して失業率が上昇するというわけです」
ようやく調印式に漕ぎ着けた感のあるTPPだが、ひとたびトランプ政権が樹立すれば、アメリカが脱退する可能性すらあるという。
他方、島田教授によれば、
「TPPを離脱しないにしても、アメリカは日本に対して個別の業種で妥協を迫るでしょう。たとえば今回の交渉で最も難航したと言われる製薬分野。歴史的に見ても、アメリカの製薬業界は世界をリードしてきました。しかし、今回の交渉では主導権を握れず、TPP発効後はアメリカ企業が割を食うとされる。関税面などで日本に譲歩を求めることは十分に有り得ます」
“トランプ政権”が日本に安泰をもたらすとは、もはや考えられない。
外交ジャーナリストの手嶋龍一氏に選挙戦の行方について問うと、
「これまでのアメリカ大統領選では、ひとつの失言が命取りになりましたが、トランプ氏はあれだけ暴言を連発しながら却って支持率を伸ばしている。私は大統領選で予想を誤ったことはありませんが、今回ばかりは先が見えません。前例のない乱打戦と言えます」
そうなれば、野卑で傲慢ながらストレートな“トランプ節”は一層冴えわたる。
日本が赤ら顔の“ジョーカー”にやり込められる日も遠くないのだ。
「特集 『トランプ大統領』誕生で日本は危機か? 安泰か?」より
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