求人サイトで「院長」募集……新薬に乗じた“エセ免疫療法”で売るクリニック 〈がんになればすがりたくなる「先端医療・先進医療・民間療法」のワナ(2)〉

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「オンコロジークリニック」代表・大場大氏が、がん治療を謳う「エセ医学」の存在を忠告する。日頃、テレビCMなどで耳にする「先端医療」なる言葉は、“医学的に意味を持たない、勝手につけられたキャッチコピーのようなものに過ぎない”という。こうした先端医療を騙(かた)るクリニックの開設は、全国何百カ所にもなろうとしている。

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東京オンコロジークリニック代表・大場大氏

 差し当たって世界で話題になっているのが、ニボルマブやイピリムマブという真の免疫療法です。

 近年、がん細胞が免疫の働きにブレーキをかけて、免疫からの攻撃を躱(かわ)したり阻止していることがわかってきました。そこで、このブレーキを解除し、免疫細胞を活発な状態に戻し、がん細胞をやっつけられるようにする治療薬がようやく出てきました。〈ブレーキ部分=免疫チェックポイント分子〉を標的にした薬こそが、先ほど挙げたものなのです。

 例えばニボルマブの場合、これまでの抗がん剤とは明らかに異なる効果を示すことがわかっていますが、治療対象として承認された疾患は、国内では悪性黒色腫という皮膚がんの一種と非小細胞肺がんのみ。その一方で治療費が高額であり、効果が事前に予測できない薬でもあるため、医療費が雪だるま式に膨らんでいくことも考えられます。

 もっとも、このような免疫療法の開発が、他のがんに対しても進められることは間違いない。

■名前を巧みに利用

 むろん、新薬開発の世界の実情というのは、患者さんには窺い知れないところがあります。悲しいかな、エセ免疫療法を売りにするクリニックのなかには、それに乗じ、ニボルマブやイピリムマブの名前を巧みに利用しているところも多いのです。

 最近では、患者さんに自己輸入させて、どのがんであっても適応すると言い、いい加減な用量を自作のものと一緒に投与しているクリニックまで登場しているというのです。

■院長を募集

 繰り返しになりますが、これらは本来備わっている「腫瘍免疫」にかかっているブレーキを解除することで抗がん作用を示すため、実は従来の抗がん剤とはまるで違った副作用が生じます。死亡するほどの重篤な副作用も報告されているので、誰でも気軽に扱えるわけではありません。現状では、「緊急対応のできる施設で専門医資格を持つ医師による慎重な使用を」と注意喚起されています。何よりもまず、そこを確認してください。

 なにしろ、免疫療法を扱ういくつかのクリニックでは、医師求人サイトを通じ、高収入を条件にして半ば安易な形で院長を募集しています。医師免許さえ持っていれば誰でも扱える治療だという認識なのか。とにかく、体験談レベルの話を誇張したり、保険がきかないからといって高額な治療費も求めたりするところには、注意が必要でしょう。

「特別読物 がんになればすがりたくなる『先端医療・先進医療・民間療法』のワナ――大場大(東京オンコロジークリニック代表)」より

大場大(おおば・まさる)
1972年、石川県生まれ。外科医・腫瘍内科医。医学博士。2015年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科学教室助教を退職し、セカンドオピニオン外来を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に、『がんとの賢い闘い方――「近藤誠理論」徹底批判――』(新潮新書)、『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』(PHP新書)がある。

2016年2月11日号掲載

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