「炭水化物漬け」がリオの切符をもたらす「福士加代子」
地球の裏側で「ロードの女王」に化けられるか――。1月31日の大阪国際女子マラソンを制した福士加代子(33)が、リオ五輪代表の座をほぼ確実にした。過去のレースでたびたび露わになっていたスタミナ不足は、何と「ドカ食い」で克服したのだという。
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福士はレース中盤から独走状態となり、2時間22分17秒という、日本歴代7位の好タイムでゴール。派遣設定記録である2時間22分30秒を上回り、自力で五輪切符を手元に引き寄せた。
「3000メートル、5000メートルの日本記録を持ち、『トラックの女王』と称される彼女は、マラソンでは“いばらの道”を歩んできました」
とは、全国紙運動部デスクである。
「北京五輪代表をかけた08年の大阪国際が自身の初マラソンでしたが、先頭を独走しながらも30キロ手前で脱水症状に襲われ、ゴール前のトラックでは何度も転倒。フラフラの状態で19位に終わりました。12年の大阪でも序盤から飛ばして後半に失速、ロンドン五輪を逃しています」
いずれも、レースが近づいて食が細り、スタミナ不足に陥った結果であった。
「そうした“燃料切れ”を補うべく、日々の食事から改善を図ってきました。栄養士の指導のもと、それまでの3倍、1合半ほどのお米を毎食1時間近くかけて食べるという徹底した炭水化物摂取で、内臓から強くしていったのです」
管理栄養士の荒牧麻子氏によれば、
「マラソン選手は何時間もエネルギーを出し続けなくてはならず、グリコーゲンを途切れさせないために、走る前には多くの炭水化物を摂ります。高橋尚子さんもお餅で補っていました。グリコーゲンを通常より多く貯蔵する摂取法『カーボローディング』が成功したのが、福士選手の勝因でしょう」
■カステラも食べて
レースを解説した、スポーツジャーナリストの増田明美氏が言う。
「福士さんが食事を変えたのは4年前、ロンドンを逃してからです。トラック選手はスピードを磨くために体重を絞りますが、マラソンでは通用しない。合宿で旅館に泊まった時など、残ったご飯でお握りを作ってもらい、夜食にしていました。無理にでも食べてきたので『練習よりきつい』と漏らしたこともありました」
今回のレースでも、
「当日の朝食では、どんぶり一杯のご飯、前日には後輩からの差し入れである分厚いカステラまで平らげていました」
リオ代表の女子枠は3。すでに8月の世界選手権で日本人最高の7位に入った伊藤舞が内定しており、残る2枠の争い。福士はほぼ当確ながら、万全を期すべく最終選考となる3月の「名古屋ウィメンズマラソン」にもエントリーした。
「福士さんは現在、国内で一番素質があると思います。本来なら2時間17〜18分台で走れる選手です」
そう太鼓判を押すのは、高橋尚子を育てた佐倉アスリート倶楽部の小出義雄代表である。
「今回は、ペース配分も申し分なかった。走り全体に全く無理がなく、ようやくマラソンが分かってきた、という感じです。やはり5000メートルや1万メートルが強くなければ、いいランナーにはなれない。リオに出れば、メダルも十分あり得ます」
久々に、マラソンが楽しみな五輪となるかもしれないのだ。
「ワイド特集 崖っぷちの歩き方」より