空き家激増だから住宅街にベトナム人の「大麻工場」

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 秋深き隣は何をする人ぞ――と詠んだのは俳聖の松尾芭蕉だが、隣家でボヤ騒ぎがあったら、何をする人ぞ、などと悠長に眺めていられるはずもない。119番通報で消防士らが駆けつけてみれば、ベトナム人がひそかに稼働させる「大麻工場」だった。

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 大阪では典型的なベッドタウンの富田林市。その新興住宅街にある2階建ての民家で異変が起きたのは昨年12月21日のこと。目撃した近隣住民が語る。

「消防車が5台も来た。あの家の屋根のあたりから煙が上がっていたんだ」

「でも、あれは煙っていうより蒸気だった。モクモクとではなく、シューッて感じで1メートルぐらい上がっていたわよ」

 とは別の近隣住民。

「すぐに火事ではないとわかって、消防の人たちは帰ったのですが、警察の人たちは残っていた。あの家に通ってくるベトナム人を待っていたのです」

 ベトナム人男性は押し問答の末に、しぶしぶ私服警察官らと家の中に入り、再び出てきたときには手錠をかけられていた。

「見た目は30代前半くらいかな。長らく空き家だったあの家に、彼が出入りするようになったのは昨年の夏ごろ。道で会えば会釈もするし、礼儀正しい男でしたよ。午後2、3時ごろに車でやってきて、1時間ぐらいでどこかに行ってしまう。夜は電気がついていないし、住んでいる様子がないから、変だなと思っていたんだよ」(目撃した近隣住民)

■簡単に栽培できます

 府警が押収したのはおよそ500株の大麻草の鉢植え、乾燥大麻、栽培に使ったと思しき照明器具などである。500株の大麻草を換金すると、軽く1億円を超えるそうだが、むろん大麻の栽培は違法行為だ。

「府警は、外国人が絡んだ組織的な大麻工場の可能性もあると見て捜査を進めています」(在阪記者)

 大麻栽培に詳しい作家の草下シンヤ氏が解説する。

「かつて室内で大麻栽培をする現場を取材したことがあります。加湿器をガンガンかけて、室温を上げ、人工の明かりを照らして成長を促進させていました。開花の時期には照明を調整する必要もありますが、普通の植物や野菜を育てる手順と変わりません。種子さえあれば、だれにでも簡単に栽培できます」

 とはいえ、住宅街で大量生産できるだろうか。

「大麻には松ヤニのような特有の匂いがあり、開花する際に匂いが強くなります。大量に栽培していると、ご近所さんに気付かれ、警察に通報されることもよくあるのです」(同)

 もっとも、都会のマンションやアパートの押入れでこっそりと大麻を栽培する輩もいるそうだから、空き家が目立つ住宅街でこの犯罪に手を染める者がいても不思議ではない。

 総務省によると、全国の空き家は2013年10月で820万戸。7、8軒に1軒が無人の居だ。十数年後には4軒に1軒が空き家になるという。富田林市の住宅街も例外ではなく、

「ここらは、田中角栄元総理が『日本列島改造論』を唱えたころにできた新興住宅地。住んで50年近くになるけど、まわりは俺と同じような老人ばかりだ。最近は空き家も増えてきたし、あと10年も経ったら、廃墟だらけになっちまうと思うよ」(目撃した近隣住民)

 空き家が犯罪の温床と化すのは杞憂ではなく、すでに現実なのである。

「ワイド特集 崖っぷちの歩き方」より

週刊新潮 2016年2月11日号掲載

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