告発者・一色武氏は“元・右翼団体構成員”〈「甘利大臣」をハメた情報源の正体(1)〉

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「驕る平家は久しからず」というが、安倍政権に大きな打撃となった週刊文春による甘利明経済再生相(66)の金銭授受疑惑報道。しかし、よくよく読めば、この暴露記事、甘利氏がハメられた感がある。実名で告発した情報源を取材すると、何とも怪しすぎるのだ。

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 私~以外私じゃないの~ 当たり前だけどね だ・か・ら マイナンバーカード

 甘利大臣が、人気ロックバンド「ゲスの極み乙女。」の、こんな替え歌を披露したのは昨年5月。マイナンバー制度を宣伝するための苦肉のパフォーマンスだった。だが、今度は「週刊文春」(以下、文春)に甘利氏を告発した人物が「ゲスの極み」(山東昭子参院議員)と非難されているそうだから、数奇な縁である。

 件の記事が載った文春が発売されたのは1月21日。

 その後、甘利氏と話した自民党関係者によれば、

「『ご迷惑をかけて申し訳ない』と言っていたが、とにかく気が動転している様子でした。あんな甘利さんを見たのは初めてですよ。自殺でもするんじゃないかと心配になったほどです」

 政治部デスクも言う。

「記事が出るにあたり、甘利さんは大臣を辞めたいと漏らした。しかし、菅官房長官ら官邸サイドが思い留まるよう説得。自民党の高村副総裁が『罠を仕掛けられた感がある』と発言したように、記事にはかなりウラがありそう。甘利事務所にもじっくり調査をさせてから結論を出すことにしたのです」

■用意周到

 では、改めて、記事の概要を説明すると――。

 文春によれば、告発者は、千葉県白井市にある建設会社「S」社の総務担当者、一色武氏(62)である。

 告発者の社員が実名なのに、なぜか「S」社としか報じられない会社は、薩摩興業株式会社という名称。この会社は、都市再生機構(UR)が行う道路整備を巡り、土地トラブルを抱えていた。一色氏は、2013年5月、その補償交渉の口利きを甘利事務所に依頼。見返りとして、同年8月、公設秘書に現金500万円を供与し、甘利氏にも同年11月、大臣室で現金50万円を渡したという。

 また、14年2月には、別のトラブルを解決してもらうため、甘利氏に今度は地元事務所で現金50万円を手渡したというのだ。

 一色氏の証言によれば、甘利氏側に渡った賄賂の総額は1200万円に上る。証言は詳細で、膨大な録音データもあるという。甘利氏が現金を受け取ったなら、大臣ポストの辞任だけで済まない話だ。ただ、告発者が「ゲスの極み」とか、甘利氏が「罠を仕掛けられた」と指摘されるのには、相応の理由がある。

 まず、一色氏は甘利氏に2度にわたり、現金を50万円ずつ渡したと証言するが、その際、事前に現金をコピーしている。これが証拠といわんばかりだが、この用意周到な行動は異様というほかなく、意図があったことは明らかだ。

 さらに、甘利氏の秘書へ現金を手渡す現場を、文春のカメラマンに撮影させている。おとり捜査のような取材を了解した裏にも同じ意図が浮かび上がる。

■元右翼

 一般人ならなかなか思いつかない仕掛けをする一色氏とは、何者なのか。身長は170センチ弱。年相応に頭頂部付近が禿げ上がり、ふっくらした体型だという。

 会社を経営していた時期もある。妻も子どももいて、

「フィリピンパブが大好きでね。一時はフィリピンの女性と暮らしていたこともある」(知人)

 と、ここまでは、そう珍しくないものの、

「確か知り合いの不動産屋の紹介で、一色が俺の所に来たのは20年くらい前かな」

 こう証言するのは、東京・八王子市を拠点とする右翼団体Aの元会長である。

「うちの構成員は20名くらいだった。俺が3年程前に体調を崩し団体を解散するまでは、真面目に活動していた。毎月2回、新宿の小田急百貨店の前で街頭演説していたが、一色も年1、2回は街頭に連れて行った。あいつは異常なくらいマメな男でね。領収書なんかもいちいち取っておいて、何時に誰と会ったかも全部メモしているような奴だった。そういう男は右翼には向かない。それが、いつの間にか、薩摩興業の総務担当になっていたとは。驚いたね」

 元会長と薩摩興業は以前、付き合いがあったという。

「薩摩興業は今回の土地トラブルで、URから損害賠償や立ち退き料を取ろうとしていた。今から9年くらい前のことです。そこで、薩摩はうちと、私が親しくしていた神奈川県のBという右翼団体に協力を依頼してきた。その際、薩摩からうちの団体とBは共同で300万円、受け取っています」(同)

 右翼団体Bの元幹部氏が続けて述懐する。

「Bの会長は大臣もやった元国会議員と親しく、最初はこの人にURとの交渉を任せた。元大臣は『URから5億円取れる』なんて言っていたが、結局うまくいかず、一時、URの道路整備の工事もストップしてしまった。これに薩摩の社長が激怒してね。社長は、URから何も取れないのなら、交渉はもういい。我々に『1000万円払え』と言い出したのです」

 右翼団体は、1000万円ものカネを直ぐには用意できなかった。そこで、考え付いたのは、

「薩摩の社長には、私の部下と一色が交渉を続け、きちんと経過報告もすることで納得してもらった。そして、部下と一色はこれを機に薩摩興業の名刺を持つようになったのです」(同)

■“紹介してもらえないか”

 元国会議員を使っても、うまく行かなかったURとの交渉。そこで、一色氏が目を付けたのが、現役閣僚の甘利氏だった。元幹部が続ける。

「彼は、右翼団体の他に『政府認定特定非営利活動法人(NPO)国際人権教育推進センター副理事長』の名刺を持っていた。実は、このNPOの前理事長は、甘利さんの父親(故・甘利正代議士)の元秘書で、甘利さんとも昵懇でした。一色は、前理事長に何度も“甘利さんを紹介してもらえないか”と頼んでいたそうです。甘利さんに信用してもらおうと、ここの副理事長の肩書を利用しようとしたのでしょう」

 もっとも「国際人権教育推進センター」に、一色氏について聞くと、

「一色という人は知っていますが、当NPOの副理事長ではありませんし、それどころか会員でもない。名刺は勝手に作ったものでしょう。とんでもない話ですよ。彼とは、4、5年前、前理事長の事務所で4回くらい会ったことがある。うちの会員になりたいというので、入会金と年会費を払ってください、と言ったらそれっきり。前理事長も一色を警戒していた。甘利さんに会いたがっているのを知っていましたから、甘利事務所にも彼とは会わないよう警告していたはず」(小宮隆副理事長)

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〈「甘利大臣」をハメた情報源の正体(2)〉へ続く

「特集 『甘利大臣』を落とし穴にハメた『怪しすぎる情報源』の正体」より

週刊新潮 2016年2月4日号掲載

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