新商品相次ぐ「ラップ口座」の損得勘定
2015年、投資信託の資金流出入額は、1年間で約13兆円の流入超。昨年末の純資産残高は98兆円弱で、3年連続で最高額を更新したという。
「その原動力となったのが、“ラップ口座”だったという指摘があります」(投資アナリスト)
ラップ口座とは何か。簡単に言うと、顧客と投資一任契約を結んだ証券会社や信託銀行が、個人投資家の資産運用や管理を行うというものだ。
「投資家が支払う手数料が、運用資産残高に応じた一定の割合となっており、その中に売買手数料や口座管理料、運用報酬などが“包まれている”ため、英語で“包む”を意味する“ラップ”が付けられた」(同)
04年の規制緩和で誕生したのだが、この勢いがすごいのである。
「日本投資顧問業協会の調査によれば、昨年3月末でのラップ口座契約件数は約30万7000件で、契約金額は約3兆8900億円。これが半年で約42万7000件、約5兆1600億円へと増加しているのです」(経済部記者)
ラップ口座は“国際分散投資”が基本。通貨や株式、債券や、それらを組み込んだ投資信託(ファンド)を対象に分散投資することで、価格下落というリスクを低減させようとする。
もともとは富裕層向けの商品だったため、最低でも1000万円のまとまった資金が必要とされていた。が、投資対象を投資信託に限定し、300万〜500万円から始められる“ファンドラップ”が登場したことで、契約数も契約金額も飛躍的に上昇。
「結果、多くの資金がファンドに流入したのです」(先のアナリスト)
■若年層向けに多様化も
さらに最近人気を集めているのが、最少1万円という小口で預け入れることのできる“ラップ型投信”。
「成長型や、安定型・保守型といった簡易なコースに分かれており、こちらは資産形成法のひとつとして注目が集まっています」(同)
各社が知恵を絞り、さまざまなラップ運用商品を次々と出している、というのが現状なのである。
では運用の実績はどうか。ラップ口座やファンドラップは、投資家ごとに異なるポートフォリオを組むため単純な比較はできないが、
「一昨年から昨年にかけて、株式相場が上向きだった頃は、8〜10%という利回りを達成していました。昨年8月のいわゆる“上海ショック”で、日経平均株価は2カ月で16%下落しましたが、ある証券会社の低リスクタイプのラップ口座だと、資産価値の下落は5%程度で済んだ。ここまでは安全資産と言えるでしょう」(経済ジャーナリストの田部正博氏)
だが、気になることもある。ラップ口座はファンドへの依存率が高いが、その運用成績がどうか、という問題だ。
「実は昨年1年間の投信は、分配金支払い前で約1兆9600億円の運用損。こうした状況では、ラップ口座でポートフォリオを組む各金融機関の手腕が問われることになります」(同)
ラップ口座は短期の利益追求より、長期に亘る安定した資産運用が目的だ。が、
「ラップ口座の契約金額が増加している一方で、実は銀行の預金残高が増え続けているという実態があります。しかも、ラップ口座の人気を牽引しているのも、預金残高を増やしているのも60歳以上のシニア世代なのです」(同)
利回りからすればラップ口座のほうが断然上だが、元本割れのリスクもある。
「シニア層には“投資から貯蓄へ”という逆の流れも起きている」(同)
そこで今後は、より若い世代向けに、インターネット利用でコストを下げたラップ口座の新商品も登場。“ラップ戦国時代”はまだ続きそうだ。